ミヤマシジミの♀

富士山麓絶滅危惧チョウ体験記  2005年8月20日(土)〜21日(日)

宿舎:リゾートイン吉野荘

研究者(敬称略)

   渡邊通人 河口湖フィールドセンター 自然共生研究室 室長

   萩原康夫 昭和大学教養部助手(蟻研究)

   片岡(女性) 多摩動物園勤務(富士山麓でリス調査研究)

 私は,チョウについてはあまり知らないし,ましてや調査体験もなかった。昨年,アースウォッチ花王教員フェローシップでハンガリー野鳥調査に行かせていただいて,とても楽しい体験をした。それで,また野外調査のプロジェクトに参加したいと思った。しかし、今年は夏休みに長期の休みをとるのは難しく,国内のプロジェクトに参加することにした。チョウの美しさに以前から惹かれていた私は,このプロジェクトに魅力を感じた。

 前泊し,20日朝9時,河口湖駅に出迎えていただき,プロジェクト参加の方達とお会いした。渡邊先生,萩原先生,ボランティア8人の計10人が2台に分乗し,北富士演習場に向かった。ここは,日曜日は一般の人たちも入れるが,この日は入るために許可を得ていた。迷彩服の自衛隊員に渡邊先生が話をしてゲートを開けてもらった。調査地に着き,お互いに自己紹介をし,おおまかな説明を受けた。歩いていると,真横を戦車が5〜6台通り過ぎた。

この日は滑走路(D地区)を調査した。滑走路といっても土のままで草も生えていた。飛行機が飛び立つわけでなく,ヘリコプターの離着陸に使われるそうだ。演習場は4月に火入れをして、植物を焼くが、盆栽のような松が生え残っている所を見ると、根こそぎ焼くわけでもなさそうだ。だから、ミヤマシジミも越冬できるのだろう。

後から思うと,この日の午前中調査した場所が,一番幼虫が多かった。ピンクの花を咲かせたコメツナギを観察し,アリを探すと,その側に絶滅危惧ミヤマシジミの幼虫が見つかる。大きなクロオオアリ,それより小さなクロヤマアリとミヤマシジミは共生関係にある。ミヤマシジミの幼虫は蟻のエサになる蜜を体表から出す。その蜜を食べる蟻の個体は決まっている。その蟻はやがて,終令になった幼虫を蟻の巣に連れて行く。そして蟻の巣の中で幼虫にエサを与える。幼虫はやがてサナギになる。そして羽化するまで面倒をみるのである。決まった蟻だけが共生関係を持っていて,幼虫から蜜をもらわない蟻は葉などを食べるそうだ。蟻の種類としては,上記2種類以外に,たまに小さめのエゾアカヤマアリを見た。

2班に分かれて調査していった。ボランティアは,紙への記録,GPS記録装置を持つ,捕虫網を持つ,という風に仕事を分担した。そして先生方が写真を撮影をされていた。ミヤマシジミの幼虫または成虫を見つけると,小さなGPS記録装置のボタンを押して場所を記録する。幼虫であれば@何令か,Aどの種類の蟻がそばに何匹いるか,B花または葉,どちらのそばにいるか,C時刻を記録した。また成虫なら捕虫して@雌雄,A羽の破損状況(1〜5段階,1が一番美しく,羽の端に白い部分が充分残っている),B時刻を記録した。それに羽へのマーキング。胸部を持って、両羽の内側へ決めた色の油性マジックを使って見つかった順に数字だけを書いていった。私たちの班は、この日は赤、翌日は緑のマジックを使った。マジックで書くのは初心者には難しかった。以前、シールを貼ることを検討したらしいが、ミヤマシジミは鱗粉が多く貼れなかったそうで、マジックを使っている。そのマーキングから大体、雄は2週間、雌は3週間程度の命であることがわかっているそうだ。

ミヤマシジミのみを調査したが、似たチョウにゴマシジミとツバメシジミがあった。また、他に、ヒメシロチョウもよく飛んでいたし、他にも色々なチョウが飛んでいた。しかし、アゲハチョウはなかった。

昼食は,名物吉田うどんを食べに行った。「みや川」へ行くが、売り切れていて「美也樹(みやき)」に行った。関西人の私にとっては初めての関東風のうどんで,味は濃かったが,歯ごたえがよく美味しかった。

遅い昼食だったので,午後は2時半頃から作業を開始した。調査地は午前中と同じ滑走路。午前中の続きである。同じ滑走路でも午前中よりずっと見つかる幼虫,成虫の数は少なかった。3時過ぎ,上空からヘリコプターが2機降りてきて滑走路に着陸した。しばらくして離陸していった。頭の上を通る時は迫力があった。4時半頃,調査を終えた。この日,私たちの班が見た調査した個体は,成虫29頭,幼虫50頭だった。

宿泊場所の吉野荘に行き,男女に分かれて入室した。その和室から,昼間は雲にかかってよく見えなかった富士山がよく見えていた。次に行った展望風呂からも綺麗に見えた。銭湯で偽物の富士山は見るが,本物の富士山を見ながらの入浴は気持ちがよかった。6時半から大食堂で夕食。料理も非常に美味しかった。萩原先生自家製のラベンダー酒,くろもじ酒などをいただき,和気藹々と楽しい時間をもてた。夕食後,同じ場所で約1時間のレクチャー。パワーポイントを見せてもらいながら説明を受けた。そして,皆さん,色々な質問をし,疑問に対して先生方に丁寧に答えていただいた。9時10分、レクチャーは終了し、部屋に戻ると、布団が敷かれていた。歯を磨き、明日の用意をして布団に入った。1日体を動かし、疲れていたためか、すぐ眠りについた。

 21日(日)、6時半に目覚まし時計をセットしていたが、案の定、私は5時半頃、目覚めてしまった。他の人たちはまだ眠っていたので、そーっと窓に寄っていき、襖を開けて富士山を見てみた。山頂に雲が傘をかぶったようにあった。確か、こういう雲だと雨になるだろうということを思い出した。しかし、天気予報は悪くなかったはずなので、さして心配もしなかった。自分の布団に戻り、昨日書かなかった日記を書いたり、もらった資料を見たりしていた。顔を洗って服を着ていると、他の人たちも起きてきた。

7時、朝食。昨日の夕食に続いて、朝食もおかずが多く美味しかった。8時半、玄関に行くと、片岡さんという若い女性が声を掛けてくれた。今日は、萩原先生の代わりに片岡さんが教えてくれる。片岡さんは、今朝、東京から車を運転してきた。明日からリスの調査をするそうだ。今日、萩原先生は昨日のD地区で蟻の調査をされるそうだ。

渡邊先生、片岡さんの2台の車に分乗して出発。道の駅に寄って渡邊先生にお土産にスモモ、モロッコエンドウをいただいた。そしてB地区へ行った。今日も2班に分かれ調査した。ここは、昨日のD地区より、幼虫は少なかったが、成虫が多かった。私は、網を持っていたので成虫を捕まえることが多かった。幼虫の方は昨日ほど見つけられなかった。高校生のAさんやMさんは若く目が良いのと、根気があるのとでとても小さな2令幼虫でも良く見つけた。渡邊先生に「地元の高校生達はこんな調査に参加しませんか?」と訊くと、「今の子達は、なかなかしたがらないからね。その点、アースウォッチの人たちは、お金を払って来てくれるんだからすごいです。」と、おっしゃった。

昨日、うどんを食べるのに、売り切れていたり並んだりしたので、11時に調査を切り上げ、昼食とした。「ふもとや」で私は「きんぴらうどん」を食べた。昨日よりは味が薄く、関西風に近く、だしがきいている。昨日の「肉天うどん」は450円、きんぴらうどんは400円と値段は安めである。

午後はB1地区を調査した。静岡では絶滅して、山梨でもかなり少なくなっている○○○○○○を見た。4枚花の清楚な花である。渡邊先生によると、この植物は富士山でも東側にしかないそうだ。

途中で富士山東麓のE地区に移動した。ここからは演習場が見渡せた。まるで、北海道かアメリカかという雄大な景色が広がっていた。しかし、幼虫は7頭、成虫は2頭と今までに比べ少なかった。以前、ここで「サナギ」が見つかったそうで、今回も期待していたが、残念ながら見つからなかった。

帰りのバスの時間に合わせて、16時10分調査終了。2日目、私たちの班は合計で、成虫30頭位、幼虫20頭位見つけることができた。2日間を通して、最初に調査したD地区が一番多かった。16時45分、河口湖駅に到着して、メンバーの方達とお別れの挨拶をして別れた。

調査場所への移動中、車内で先生方やボランティアの方達から自然に関する様々なお話を聴き、勉強になった。標高約1000mで平野部に比べて涼しく、雄大な富士山、初秋の植物を見ながらの調査は楽しかった。

追記
見た植物:カワラナデシコ、ヒヨドリバナ、クサフジ、ヒメトラノオ、ヨツバヒヨドリ、マツムシソウ、ナンテンハギ(ミヤマシジミはここにも居る)、ツルフジバカマ(ヒメシロチョウはここに居る)