本ワールドカップは、東北アジアでは初の開催であり、二カ国共同開催はワールドカップ史上初のことである。本大会の意義を浮き立たせるため、以下ワールドカップの歴史をたどってみる。
第一回開催地ウルグアイでは、第一次世界大戦や世界恐慌に巻き込まれた欧米の大国が疲弊しているさなか、羊毛や食肉産業で静かな繁栄を迎えていた。国家の威信をかけ、大会五ヶ月前に首都モンテビデオに十万人収容のスタジアムを建国百周年に合わせて建設。目立った資源もない小国、南米ウルグアイが「やればできる」ことを宣言し、人類に自信と希望をもたらした大会であった。
第二回イタリア大会は、ムッソリーニの思惑に支配され、ファシズムの威光を示す場として利用された。スポーツ、中でもサッカーは公平でなくてはならないという理念がうち立てられた。
一九三八年の第三回フランス大会もヒトラーの国威発揚に利用されかかったが、永世中立国スイスの活躍がその芽を断った。しかし翌年ドイツはポーランド侵攻、第二次世界大戦が始まり、W杯は中断された。
一九五四年第五回スイス大会に韓国は初出場し、その極東予選が日本で開催された。戦後初めての日韓戦である。当時の李承晩大統領は日本代表の韓国訪問を認めなかったため、韓国代表は植民地支配の屈辱をはね返し、日本に勝って帰国することが至上命令ということで日本で対戦した。日本は敗れ韓国はW杯初参加をした。
一九六二年第七回チリ大会の二年前、チリは大地震に見舞われたが、真の復興を果たすためにも国民が団結してこの大会を成功させた。
一九八二年はスペインで開催された。スペインに民主政府が樹立されるまでとの思惟に基づいて、ニューヨーク近代美術館に寄託されていたピカソのゲル二カが、スペインに返還された。新生スペインの民主化政策をアピールし、それを祝福する大会であった。
一九九四年第十五回米国大会では観客動員数は大会史上最高であり、スポーツビジネスの始まりを築いたとさえ言われる。
これほどの意義と実績をもつW杯を、県民一人一人の心の中に自信をもって迎え入れられるように、例えば「県民の友」にW杯の意義や歴史的功績を掲載するなどの広報活動を積極的にすべきではないか。歓迎活動をさらに表面化し、はばかることなくそれを迎え入れ、今大会を歴史、平和と民主主義を妨げる人種差別等を乗り越えていける力にするための、国際親善、国際交流の場にしてはいかがか。
日本サッカー協会の記章は八咫烏(三本足のカラス)であるが、これは和歌山県人の先輩方の功績である。県は、W杯の意義や功績を積極的に発信する取り組み、商業主義に流れるのではなく、歴史的・文化的な評価を県民とともに行う取り組みをすべきである。
デンマークチームのキャンプ地としての練習場、宿泊所の係る諸々の対策については、競技場周辺の地域住民が迷惑をこうむらないための対策はもちろんのことであるが、そういった警備や交通規制の側面からだけではなく、デンマークチームを歓迎し、フレンドマッチを行ったり、より多くの人々が和歌山県に来訪されるようなことにも心配りしていただきたい。
◆木村知事
現在日本においては、北東アジアとの関係が今
後さらに重要となってくる。そんな中、開催され
るW杯の一翼を和歌山県が担えたこと、デンマー
クを誘致できたこと、その意義を県民に広報して
いくことが重要であると考えている。現在は盛り
上がりに欠けるが、南国和歌山の特色を出した歓
迎の仕方、盛り上げ方を今後考えていきたい。デ
ンマークについては、クヌッセンという船員が徳
島の船員を救うため命を投げ出したというふう
な和歌山との関係も深い国ということもあり、こ
ういう国際関係という点も強調しつつ、本県が練
習場になったことをさらに地域発展に役立てて
いく努力を重ねていきたい。
◆小関教育長
デンマークチームを迎えての和歌山キャンプ
を成功裏に進めるための実行委員会、運営委員会
を立ち上げ、関係方面等、多くの連携のもと着々
と準備を進めている。練習場や宿泊所の安全対策
等は、日本組織委員会の警備及び交通対策に関す
る指針に基づき、県警察本部等と連携を密に安全
の確保のための準備を進めている。
広報活動については、現在、歓迎横断幕やポス
ター等を製作しており、完成次第県内の効果的な
場所へ掲示したい。さらにいくつかの民間団体か
らものぼりやステッカー等を製作し、交通機関な
どへ広く配布する計画が出されている。
◆岩井警察本部長
デンマークチームの安全確保や観戦者等によ
る雑踏事故防止、交通渋滞対策等を重点とした警
備対策に万全を期すとともに、教育委員会をはじ
め他の関係機関により講ぜられる諸対策についても緊密な情報交換を図る等、連携を維持してい
く。
(要望)
W杯日韓共同開催が極東アジアの平和のためにも大きく役立てられるよう、国内の取り組みに一層の努力を全国に向けてアピールされるよう要望する。そして、デンマークチームを迎えるための取り組みについては、和歌山ならではの特色ある取り組みを事務当局とともに検討されることを要望する。
本大会の要項には「スポーツ振興と青少年の健全育成を図るとともに各市町村の活性化に資するため」という目標が掲げられていた。開会式でも知事は予想以上に盛り上がる大会であると評価されていた。しかし、せっかく県下各地から小・中学生が参加し一生懸命走ったのに、記録はおろか表彰もされないという事態がおこった。どうしてこのようなことが起こったのか。本大会の目的に照らし合わせつつ的確に総括し、次に備えていただきたい。各市町村から起こる様々な意見を酌み尽くしていただきたい。
チームの記録はあるが個人記録はない、というのはどういうことか。また記録が混乱したのは、マリーナシティ内のコース設定に問題があったからではないか。
当初の計画では五十市町村から選手を送り出し、参加するということにはなっていなかったようである。中途から立ち上げてきて、予算その他様々な問題で苦労された自治体もあったと聞いている。もしこの五十市町村の参加が大会成功にとって不可欠要因であったとするなら、県が交通費くらいは補助すべきではなかったか。
さらに実施後、和歌浦の急な坂道を小学生に走らせるのは、子どもの正常な発育を考えても考慮すべきではなかったかという意見も寄せられている。
本大会は県内の小・中学生の中に極めて能力のある選手が存在することも発掘したに違いない。そのような子どもたちをどう伸ばしいくかが、大会の今後にかかる大きな責務の一つではないだろうか。それに対する選手育成と、将来への発展の基礎になるであろう保障を彼らに与えていただきたい。子どもが能力を伸ばし、学校活動の中で生き生きと育つための教育保障を今こそすべきではないか。学校の先生だけでなく社会人も加わり、学校のクラブ活動や体育活動を旺盛にさせていく必要があろう。
十九歳の少年に乗せてもらった自動車事故で亡くなったある中学生男子は、小学校時代はサッカークラブなどに入り生き生きと育っていたが、中学校では打ち込めるクラブがなくなり、学校生活にも張りがなくなり生活も崩れはじめ、夜出歩くようになったという。そんな矢先の事故であった。その間、学校へも相談に行ったが、取り合ってもらえなかったと彼の両親は言った。そのことを思い出すにつけ、優秀な潜在能力ある子どもたちを発掘しておきながら、途中で放り出すような取り組みは県政の取るべき態度ではないと私は考える。教育委員会にみならず、県政全体でどうフォローするかということを、小・中学校及び社会活動との関わり合いのなかで検討していただきたい。
◆小関教育長
七区と八区の周回コースは、観客が応援しやす
い場所として設定したが、七区と八区のゼッケン
の色を変える工夫をしたにもかかわらず、当日は
雨天であったこと、さらに多くの観衆がコース上
に立ち入ったことなどにより混乱が生じた。現在、
各市町村に対し今大会についての意見を今月末
をめどに求めており、今後これらを反省材料とし
て関係者と十分協議し、来年度以降充実した大会
として定着させていきたい。順位の確定作業の関
係上、当日閉会式の場で表彰できなかったチーム
については、後日和歌山県スポーツ賞表彰式の席
上において表彰した。 県体育協会と競技団体と
で現在ジュニア一貫指導システム構築事業を実
施している。今回のように大会に参加した選手が
陸上競技を基本としつつもそれ以外の様々なス
ポーツ種目にも進んで参加できるよう、その契機
となるよう幅広い指導を行っていくことが大切
であると考えている。
(要望)
今後、ジュニア駅伝大会において今回生じたような不手際が起こらないような綿密な組織体制を検討していただくことを重ねて要望しておく。
海南・海草・那賀の広域計画と橋本広域計画は、大量消費、大量廃棄の社会経済活動を転換させることが基礎におかれていないというところに問題がある。計画の基本方針には、ごみの減量化、資源化施策を踏まえたごみ量を基礎とするとうたわれており、内部では着々と準備が進められているそうだが、これらの情報公開や住民参加が完全になされているとは言い難い。
◆秋月環境生活部長
本計画は国が示したガイドラインに基づき策
定したものであるが、その後、こみ処理をめぐる
社会経済情勢が大きく変化してきたため、施設整
備についてはリサイクル推進による減量化等も
勘案の上、適正な施設となるよう市町村に対し指
導を行っている。用地が選定された後、焼却する
ごみの量、減量化目標、分別の種類、適正な施設
規模などに関する基本計画が策定されることに
なるが、その際、住民をはじめ各界の意見を広く
取り入れる形で議論を行い、その情報を公開する
よう関係市町村を指導していきたい。
一九八〇年代、地域の兼業化や過疎化が進み、耕作放棄地が増加、担い手の減少などで農業が著しく不振に陥った。国の農業振興地域の整備に関する法律に基づき、県の農業振興地域制度がつくられ、地域指定され市町村は整備計画が作成された。策定は知事と協議することになっているが、取り組まれてきた昭和四十年代からこのかた、海南市の農業振興地域指定をされた振興地域で農業が盛んになったためしは一度もない。この施策は形骸化され、都市近郊の農業をどうするかという瀬戸際に立たされているのではないか。これまで県はどのような助言、指導をおこなってきたのか。
◆辻農林水産部長
この制度は将来にわたり、農業振興を図るべき
地域を明らかにし、その地域に必要な土地基盤や
近代化施設などの整備を総合的に進めることを
目的とした制度である。現在県内では四十七の農
業振興地域を知事が指定しており、その整備計画
を市町村が策定することにより、地域の農業振興
や秩序ある土地利用を図る等の点で一定の成果
をおさめてきた。
整備計画の策定、変更に際して県が行う助言、
指導は、おおむね十年先を見通し、優良農地の保
全を目的とした土地利用計画の妥当性や、効率的
で重点的な農業投資が計画されているかどうか
などである。今後とも本制度を十分活用しながら、
地域農業の発展のため適正な運用と指導、助言に
努める。