村岡キミ子議員の質問(6月21日)

【紀伊丹生川ダム問題】


村岡
 国土交通省近畿地方整備局から紀伊丹生川ダム建設計画中止の発表があり、6月5日に紀ノ流域委員会にも報告された。知事は今議会の初めに「当初の計画目的である治水・利水・河川環境面における紀ノ川流域の整備については、今後とも、国において適切な対応が図られるよう強く求めてまいりたい」と述べた。先日、このダム計画で水没予定地とされてきた九度山町北又地区、橋本市宿(やどり)地区を訪ね、住民に聞き取り調査を行ったのであるが、知事発言には、この20数年間の長きにわたり、水没地だからと行政の施策から放置されてきた住民に思いを寄せる言葉が一言もなかった。

 
 鈴木近畿地方整備局長は「水没予定地にお住まいの方をはじめ、地元市、町に長年に渡り、大変なご心労、ご苦労をおかけしました。今後、誠意をもって説明させて頂き、和歌山県の協力も得ながら、ご理解を賜りたいと思っています」とコメントしているが、住民は大変な心労、苦労を強いられてきた。

  
 
このダム計画は1974年、「紀ノ川工事実施基本計画」で治水対策として紀伊丹生川でのダムの必要性が指摘され,県が1977年から1979年にかけて「和歌山県の水需要と水資源活用構想に関する調査」をおこない、1980年から1983年にかけては「紀ノ川水系水資源開発調査」をおこなった。国は、1979年から予備調査に入っているが、1985年に県と国との間で,国の直轄事業として実施計画調査に入ることを確認。そして、紀伊丹生川ダムからの水を大阪へ送る「利水協定」が大阪府との間で結ばれ、1989年から国の実施計画調査が始まった。このように、紀伊丹生川ダムは和歌山県の計画として始められ、国の直轄事業となったものだ。県にも、住民を長期間苦しめた責任がある。

 
 橋本から高野山に通じる国道371号は、ダム予定地においては、自動車が交互通行できない箇所が無数にある。ダムができればと引き延ばされ、ダムができなければ現地の道路整備はしないとされて放置されてきた。北又地区のある高齢者が、どうせ沈む家だからと改築も修理もしないで放っておいたところ、今後も住みつづけられることになり、家屋の修理をしなければと言っていた。また昨年6月、北又橋の流失で集落に入るまで大変遠回りをしなければならず、不便で心配な生活が続いていた。宿地区では道路が狭いため、家まで車が乗り入れられず、家で病気になれば、下の国道まで車以外の手段で下りていかねばならない。

 
 国土交通省の職員は、建設中止を発表したあとすぐ北又や宿地区を訪ね、住民に説明を行ったが、ダム建設に協力してきた県からの現地説明は実施されたのか。国道371号の整備や待避所の設置など、住民が望む問題について早急に対処していただきたい。また、県には住民や関係者から意見を聞く場や会議を設定する考えはないのか。

 
 丹生川を訪れる度、土砂が崩れ無数の大きな根が谷底に放置されているが、水没予定地であったために災害復旧が行われなかったのではないか。「緑の雇用事業」をいう和歌山県が、土砂災害を放置することは許されない。昨年6月北又橋が流失したのも、倒木が橋桁にあたったことが原因であった。山と川を守り、住民の安全を守るためにも、川に転がる無数の木の根や倒木、土砂などを処理すべきである。

 
 玉川峡は県内に6箇所しかない県指定の名勝の地である。鮎のすむ清流を守るため、ダム建設反対の決議をあげてきた玉川漁協は、これからは釣り客が楽しめる玉川峡にしていきたいと話していた。玉川峡がダムによって汚されずに残されたことは本当に喜ばしいことだ。保護のための指定ならば、観光客に名勝としての値打ちや保護の意義をよびかけることが必要ではないか。とりわけこの間紀伊丹生川ダム建設を考える会がクマタカや47石発掘、鍾乳洞発見など、保全がのぞまれる。玉川峡には年間25万人が訪れる。観光客を呼び、貴重な自然を残すためにも、魅力的な観光策を求めたい。

 
 住民の中に、ダム建設中止による公的補償を求める声もあった。国土交通省は、補償はしないということだ。鳥取県では一昨年、三朝(みささ)町に計画していた中部ダム建設を中止し、それに伴い5年間で168億円の地域振興策がたてられた。水没予定地にあり、住宅改修ができなかった住民に配慮し、一戸あたり300万円を上限とした住宅改修への補助金や、高齢者のバリアフリー対策のための上限が80万円の補助金を支給。そして2つの集落に対し、県が5000万円、町が1000万円ずつ援助している。地域の公民館も今年度に完成するとか、圃場(ほじょう)整備を援助するなどの振興策をすすめているそうだ。

 
 国と協力し、ダム建設計画をすすめてきた和歌山県として、こうした鳥取県の姿勢に学び、国に公的補償や地域振興策を要望するとともに、県としても誠実に対応することが、いま大切ではないか。

  
■大山土木部長
国道371号整備については、地元の意向を聞きながら、必要なものから優先順位をつけて順次対策を進める。

 北又川の流水に支障のある箇所の倒木、土砂は緊急に撤去したところだ。今後、必要に応じ調査を行い、その結果を踏まえ適切な対応を行う。
■垣平企画部長水没予定地の住民への対策や、今後の地域振興策については国土交通省が誠意をもって解決に当たるべきものであり、県は地元の意見要望を十分反映させるために、地元及び県も参画した協議調整の場を設けることを国土交通省に強く申し入れる。公的補償についても同じく国直轄のダム計画であったために、事業主体である国土交通省が責任をもって解決すべき事柄である。県は関係機関と連携のもと、計画的に事業が実施されるよう積極的に対応していく。

■小関教育長玉川峡の貴重な清流や渓谷美を子どもたちの体験学習や県内外の多くの人々の憩いの場として一層親しんでもらえるよう、九度山町ほか関係機関と連携を図り、地域住民の協力を得て保全と活用に努めたい。

■石橋商工労働部長今後とも自然資源の保全と共生を図りながら、これらを活用した都市近郊型のアウトドアリフレッシュゾーンとして大いにPRしていけるものと考えており、現在県が推進している体験型観光等との組み合わせなどによる新たな展開の可能性も考えられる。地域の観光関係者等の意向をくみつつ、地元市町村や観光協会等と連携して振興に努めたい。

 

【県民の健康を守りさらに水準向上を】

 

村岡 国は第3次国民健康づくり対策として、「健康日本21」を定めている。目標達成期間を平成12年度から22年度までの10年間とし、全ての国民が健康で明るく元気に生活できる社会の実現と、早世(早死)の減少、痴呆や寝たきりにならない状態で生活できる期間延伸等を目的に、健康づくりを総合的に進めるとしている。本県では、どのような具体的計画が策定されているのか。

 普段から病気予防に気を配り、病気の原因を予防、改善すること、そして定期健診で早期に病気を発見したら、治療を最後まで受け、健康を取り戻すことが大切ではないか。本県の生活習慣病による死亡率は、人口10万人に対し悪性新生物(ガン)全国6位、心臓疾患全国第2位、脳血管疾患全国23位、中でも胃ガン肺ガンは全国3、4位、大腸ガン8位と高い。女性がかかる子宮ガンは、全国第4位と高く、乳ガンは第42位である。40才以上の老人保健事業による基本健康診査では、平成11年度の受診率全国平均40・4%に対し、28・4%で全国43位、平成12年度全国平均41・2%に対し29・9%で42位だが、全国水準には程遠い。せめて全国水準にまで引き上げるための対策をとられたい。

 健診は市町村事業であるため、受診率を高める取り組みが積極的に行われているにしても、県民総合健診センターの役割が一層重要になるのではないか。センターは県をはじめ、和歌山市を除く県下全市町村の出資と県医師会、病院協会、県共済、農協連、県漁連、生命保険協会、県保連、そして対ガン協会、結核予防会等の出資金によって設立された。検診車による健診活動を中心に、各市町村や事業所の要望に沿って活動を実施しているそうだ。これまでの豊富な経験と高い技術を生かしたセンターとして、住民健診に努力されることを期待する。

 最近医療機関でも健診事業を実施するため、センターから医療機関に変更する市町村も増加しているそうであるが、これはなぜか。県は健診事業の中核、健診センターを、今後どのように充実、発展させようとしているのか。

 これまで桃山町、貴志川町など健診率を引き上げるために、様々な工夫がなされていると聞くが、この経験を他市町村にも広げることはもちろん、県下3自治体くらいをモデル地域に指定し、住民参加による健康づくりを進めることを提案する。県が積極的な財政支援も含めた支援を行うことも重要である。

■白原福祉保健部長平成13年に「元気わかやま行動計画―提言書―」を策定した。本年度は県としての具体的な取り組みを示した実施計画を策定する。行動計画では平成22年までに達成すべき健康指標の数値目標を設定している。重点課題として、肺ガン、肝ガン、心臓病など他府県に比べて死亡率の高い疾患への積極的な対応や、たばこ対策への取り組み、温泉や郷土食材など、本県の豊かな自然や伝統風土に恵まれた健康づくり資源の積極的な活用をうたっている。

 本年度創設した「集合健診推進事業」により市町村を支援する。過疎地域を含む全ての県民に、質の高いサービスを提供する必要がある。和歌山県民総合健診センターが県民の健康増進に最大限活用されるよう努める。

 平成13年度から、住民参加のもと健診受診率向上を含めた「市町村健康モデル事業」を、県内4市町村で実施している。今後モデル地域の指定を含め、支援策を検討していく。財政支援は平成14年度から市町村が行う健康づくり事業に対し交付税措置がなされ、各種補助事業がある。

 

【臓器移植問題について】

村岡 1997年7月16日臓器移植法が制定、10月16日に施行された。これまで19件の脳死患者から臓器提供を受けて移植が行われてきた。今なお移植を受けるため、日本臓器移植ネットワークに登録し、待機している患者は5月31日現在、心臓60名、肺52名、肝臓49名、腎臓1万2880名、膵臓56名に及んでいる。

 旧厚生省保険医療局は「我が国における脳死、臓器移植の現状」で、年間の脳死者数3000〜8000人、肝臓移植の必要な患者数年間約3000人、心臓移植の必要な患者数は年間約60〜660人いるとしている。一刻も早く移植手術が行える環境の保障が望まれる。

 臓器移植については、国民的理解と合意を得ながら、行政や関係医療機関などと国民が共同し、様々な取り組みの強化を急がねばならない。法第3条には、国および地方公共団体が移植医療において、国民の理解を深めるために必要な措置を講ずる責務を明記している。本県におけるこれまでの取り組みと、今後の取り組みへの展望を示していただきたい。

 アメリカをはじめ、欧米諸国では1970年代後半以降法制化し、脳死移植は通常の医療行為として認められ、その事例も年間3000〜4000件に上る(読売新聞6月10日付)。昭和59年から平成12年までの17年間に心臓移植を受けるため、48名の患者が海外渡航しているそうだ。15才以上が臓器提供の有効年齢であるため、15才未満の子どもからの臓器提供は受けられない。海外に頼る以外方法はなく、死を待つという状態を患者や家族に強いている。命を救う機会が子どもだけ奪われている現状を、放置しておいていいのか。現在、国では法改正が検討されているそうだが、どのようなことが検討されているのか。

 和歌山市在住の青稜高校1年生、竹井俊隆君は、現在大阪の国立循環器病センターで、拡張型心筋症のため補助人工心臓を装着し、国内での心臓移植を待って1年が経過した。これ以上、国内での早急な移植が望めないため、米カリフォルニア大学ロスアンジェルス校UCLA付属病院での移植を受ける予定だ。しかし渡航費、手術費、滞在費などで、約9000万円が必要となる。1日も早く渡航できるよう、「としたか君を守る会」は全国に訴えたり、大阪府下の駅、JR和歌山駅やスーパーなど、労働組合・各種団体等に協力していただくなど、募金活動を進めている。県庁の正面玄関、北門、また県庁内でも協力をいただき、6月20日現在で3019万円余りの募金が寄せられた。これまで募金を寄せていただいた皆様に、この場から感謝とお礼を申し上げ、さらなるご支援をお願いしたい。

 国内移植を受けた場合と海外での移植にかかる諸費用について比較してみると、国内では心臓移植手術費として保険適用されないため1500万円、ただし国からの補助金として大学研究費、あるいは高度先端医療として1200万円が支給、自己負担金300万円、臓器運搬用の飛行機チャーター費100万〜200万円、移植後の負担は各種保険を使用し、2割〜3割負担となる。自己負担は合計500万円〜700万円。

 海外で移植手術を受ける場合、医療費は前金として病院に支払わなければ医療ビザが申請出来ないため、竹井君の場合は5200万円〜6700万円が必要となる。医療費予備費ICU1日数十万〜100万円、退院後の通院治療費1200万〜1500万円、渡航費500万〜1700万円、現地滞在費170万〜300万円、そして事務経費100万〜300万円、合計7000万円〜8000万円、国内の10倍の費用が必要になる。せめて渡航費又は医療費負担に助成制度を創設するよう国に求めていただきたい。県においても助成を求める。

■木村知事国に臓器移植医療についての更なる充実を要望していくとともに、県としてもできる限り努力したい。

 

【有事法制について】

 

村岡 6月12日の報道で、全国の知事または副知事が首相官邸で、有事関連3法案をめぐり、国からの説明と関係閣僚との間で意見交換があった。その後、全国知事会が国に対し武力攻撃事態対処法の法制に関する緊急提案が要望として出された。この要望書は我が国が直接武力攻撃にさらされる事態に至ったときは国、地方が協力してその事態に対処する必要があるという前提から問題を提起したものだが、内容そのものは、現在提出されている法案の極めて重要な部分に、地方の安全と住民福祉をつかさどる行政責任者としての疑問を呈したものである。

 その要望の第一は、武力攻撃事態法案の概念を一層明確にされたいというもの。全国の知事からこんな質問が出されるということは、法案の核心部分の概念が不明確であることを示しているのではないか。

 この法案は日本が直接攻撃を受けたときへの対処というだけでなく、周辺事態法によりアメリカ軍の戦闘作戦行為に日本が後方支援する際、日本の領土外でも、相手国からの武力攻撃が予測される、おそれがあると判断されたときこの有事関連法が発動される。政府も再三認め、中谷防衛庁長官の国会答弁にもあるが、日本がどこかの国から大規模な武力攻撃を受ける現実的な可能性はこの短期間には考えられない。しかし、周辺事態法との関連でアメリカとの共同作戦により紛争に巻き込まれるということは、それよりはるかに現実的である。その際、本法案が発動されれば、日本を武力攻撃から守るということとは全く違った内容となる。明らかに憲法にも反するのではないか。このような内容が法案に含まれている以上、県民の安全、福祉の立場から知事としてこの法案は認められないとすべきではないか。また国と地方公共団体の責務や役割分担を明らかにし、さらにそれを定めるに当たっては、地方公共団体の意見を十分に反映することを求める。

 二つの問題がある。一つはこの法案には自治体の権限に関する点で極めて重要な問題があるのに、法案作成にあたり地方の意見を聞き取っていないこと。初めから地方自治、地方分権の軽視、あるいは無視の姿勢がここにある。二つ目は地方分権の無視または軽視が色濃くでてきている。法案は、武力攻撃事態に際して地方自治体や指定された指定公共機関が国と協力をして必要な責務を実施する義務を規定している。この点に関してその内容が不明確であると全国知事会は指摘しているが、さらに自治権の侵害が重大な問題だ。それは、自治体が国と意見を異にして国の指示に従わないときには、それを国が知事に代わり地方を無視して代執行できるとしている点である。地方自治体の命運にかかわる事柄がまともに自治体の意思を問うことなく決定され、自治体はそれに強制的に従うことが命ぜられる仕組みになっている。これは国の戦争行為に直接影響を受けるその地域住民の意思を問うことなく、当該地域を戦争協力に動員するものであり、憲法が想定する地方自治の理念に反するものだと考える。

 全国知事会議は国に対し、国民の不安を払拭して国民的な合意が得られるよう国会での十分な議論を尽くされたいとしている。今提案された有事3法案は、その内容から見て憲法を逸脱するおそれが十分に危惧される。各界からも多くの疑問が投げかけられており、法案自体の不備が指摘されている。有事法制が必要だとする立場からもそのような意見が多い。この3法案を廃案にすることを国に求めてはどうか。

■木村知事現在国会で審議されている法案は、武力攻撃事態の概念に不明確さが残り、具体的な地方公共団体の責務、役割分担、権限が明確でないこと、さらに国民の生命、身体及び財産保護を図る「国民の保護のための法制」が先送りになっていること等、地方公共団体や住民に関わりの深い事項を早期に明確にし、地方の意見が十分反映されることが必要だ。国民的合意が得られるべく国会で十分な議論を尽くすことを期待し、今後とも国に対して機会ある毎に意見を述べていく。