2011年12月県議会 松坂英樹一般質問 概要記録

2011年12
1.TPP問題
(1)県民生活と県内業者への影響について
  ・農業分野
  ・医療分野
  ・公共事業
(2)TPP交渉参加撤回を国に働きかけるべきではないか

2.災害復興と河川・ダムの防災対策
(1)災害復興補正予算いついて
  ・農業再開支援の内容と森林作業道の復旧対策
  ・中小業者支援策の手続き簡素化
(2)県営ダムの治水能力向上のために
  ・県営ダムの治水能力向上への取組み状況
  ・ダム操作規程の改善を
  ・ダム堆砂の現状と対策
  ・二川ダム常時放流施設の渇水放流への活用について
  ・切目川のダムと河川整備計画について
(3)ダムの「安全神話」を克服し、河川整備の抜本的強化を
  ・「ただし書き操作」による危険性周知を
  ・堤防のかさ上げや強化と、流出・堆積した土砂の撤去活用を
  ・台風災害の教訓を河川整備計画や避難計画に生かす

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1.TPP問題
(1)県民生活と県内業者への影響について
《質問》松坂英樹 県議
 まず最初に、TPP問題で質問をさせていただきます。野田政権は先月、TPP(環太平洋連携協定)の交渉参加表明を強行しました。和歌山県議会としても昨年12月議会で、TPP交渉参加に反対する意見書を全会派賛成で可決しているところです。政府の交渉参加表明強行は、国民・県民の拙速な交渉参加反対の声、これが大きく広がっている中で、世論をふみにじったものとして許せないものです。
 昨年の議会では、物品の関税撤廃による影響をどう見るかが議論されました。TPP参加が農業と食料自給率に壊滅的影響をあたえる結果となるということはまさに大問題です。これに加えて、この間国民的議論が進む中で明らかになってきたのは、食の安全や医療、雇用などの法律や制度というようなルールが、輸入を不当に制限する「非関税障壁」だとして攻撃される、このことにより、国民・県民生活の様々な分野にかかわる大問題となってくるということです。
 野田政権によるTPP交渉参加表明という重大事態を受け、この間指摘されてきた様々な問題点が県民生活にどう影響をしようとしているのか、またTPP問題への政治姿勢をお伺いしたいと思います。

・農業分野
 まず一点目の農業分野ですが、県内農業をはじめ、加工・流通など含め大きな影響がある分野です。昨年から立ち上げたTPP問題での庁内プロジェクトチームでの議論もふまえて、農業分野での影響についてどう検討されてきたか、農林水産部長から答弁をお願いいたします。


《答弁》農林水産部長
 TPPに加入した場合の農林水産業への影響を、TPP参加国に加えASEAN加盟国、韓国、カナダ、メキシコの計18カ国について、関税が撤廃された場合を想定して検討しております。
 検討品目は、県での産出額が1億円以上で、かつ当該各国の生産状況、輸出状況、関税率等からみて、競合すると考えられる10品目でございます。
 試算に際しては、農林水産省が行った試算を参考に、本県の状況等を加味し、影響額を平成20年度の生産額に当てはめて算出いたしました。
 例えば、米では、有機栽培等の特別に栽培された米と、自家消費米の半分が残り、それ以外の米、即ち県内で産出される米の全量の85%が減少するとして試算しています。
 また、温州みかんでは、ガット・ウルグアイラウンド合意の際の影響を参考にして、10%の生産減少になるとして試算しております。
 この結果、午前中、知事が申し上げましたとおり、本県農林水産物への影響額は約136億円、このうち農産物が121億円、畜産が14億円と推計いたしてございます。


・医療分野
《質問》松坂英樹 県議
 続けて、医療分野についてお尋ねします。くらしとかかわる問題でこの間大きくクローズアップされてきたのが医療の分野へのTPPの影響です。かねてからアメリカは日本に医療の市場原理導入を求めており、混合診療の全面解禁、薬価ルールへの干渉など圧力を強めてくると考えられています。人やサービスの移動緩和による地域医療への影響、さらに公的医療保険制度・国民皆保険制度が市場参入の障壁としてねらわれると指摘されていますが、県民の医療と健康にどのような影響が及ぶと考えているか、福祉保健部長に答弁をお願いします。


《答弁》福祉保健部長
 TPP問題の医療分野への影響につきましては、現時点では国からの十分な情報提供もなく、詳細については不明ですが、県としましては、世界に誇る国民皆保険制度を堅持していくことが何よりも大切なことであるというふうに考えています。
 今後のTPP交渉では、我が国の安心・安全な医療が損なわれないようしっかりと対応するように、政府に強く訴えてまいりたいと考えております。


・公共事業
《質問》松坂英樹 県議
 3つ目に公共事業の分野でお尋ねします。これは地域経済への影響が懸念されている大きな問題だと考えています。TPP参加により、国際入札の基準額が下げられるのはもとより、県や市町村ができるだけ地元業者に発注しようとしているルールや工夫が、非関税障壁だとして攻撃されかねません。これをなくせば外国からだけでなく県外業者もフリーパスとなりかねません。公共事業の分野での影響はどう考えているか県土整備部長からお答えください。


《答弁》県土整備部長
 現在、外国企業が参入可能な地方公共団体におけるWTO基準額は、建設工事では23億円、建設工事に係る委託業務では2億3000万円でございますが、わが国がTPPに参加することにより、この金額が引き下げられるかどうかも分かっておりません。
 いずれにしましても、議員ご心配の公共事業への影響につきましては、今後、情報収集に努めてまいります。


(2)TPP交渉参加撤回を国に働きかけるべきではないか
《質問》松坂英樹 県議
 3つの分野でそれぞれの関係部長から答弁をいただきました。これらの問題以外にも、食品安全のルールも「非関税障壁」とされなかねない等の問題など、影響は多岐にわたっています。そこで知事にお尋ねします。
 知事は昨年12月議会において、農業への手立てなどをぬきにTPPへの参加は「常軌を逸している」と答弁されました。この間の国民的論議でも明らかになったように、県民生活全般への影響が危惧される中、和歌山という地域的条件もふまえてですね、情報提供や姿勢も示さないまま交渉参加表明をした国に対し、知事として抗議し撤回を働きかけるべきではないでしょうか。知事の政治姿勢をお尋ねします。


《答弁》知事
 TPPに参加することにより我が国の産業にどの程度影響があるのか、それに対する対応はこういうふうに行うということについて国民に対して情報提供が十分に行われていないなか、交渉に参加するとだけしか言わない政府の対応は問題があると思います。
 そのため、政府に対しては、TPP交渉には国益を損なわないという強い姿勢で臨むとともに、TPP参加による影響・対応策を早急に明らかにし、国民的な議論もきちんとやり、とりわけ、農林水産業など大きな打撃をうける懸念のある産業への対応策はもっとも早く検討し、それらを公にしてもらいたいと思っています。


《要望》松坂英樹 県議
 部長答弁の中では、国民皆保険制度をしっかり守ることが大切だという答弁もありました。言うべきことは言い、求めるべきことはキッパリと求めてゆくよう要望するものです。
 また知事からは、政府の姿勢は問題があるというご答弁をいただきました。午前中の(自民党 浅井修一郎議員の質問に対する)弁の中でもいろいろありました。
 バスに乗り遅れるな、長いものにはまかれろ式の国のやり方は許しがたいものです。

 日本農業の再生とTPP参加は両立しません。農業の持続的再生産を支えれば、日本には、温暖多雨な気候条件をいかす優れた農業技術と、安全・安心を求める消費者ニーズなど、農業発展の条件はあるし、そこに和歌山の未来があります。医療や公共事業でも一極集中ではなく、多様な地域が魅力ある地方を形成することが求められます。
 知事は午前中の答弁の中でも、参加するも地獄、しないも地獄とおっしゃいましたが、その考え方が当たっていたとしても、参加して和歌山の農林水産業が壊滅するよりも、参加せずに、苦しいけれども、豊かな山河と地域社会が残る和歌山をめざしてほしいということを申し上げておきたいと思います。


2.災害復興と河川・ダムの防災対策
(1)災害復興補正予算について
《質問》松坂英樹 県議
 第1点目に、今議会に提案されている災害復興補正予算と関連して質問をさせていただきます。9月県議会では災害復旧のための事業と補正予算に迅速に着手いただきました。わたくしども共産党県議団としても、災害直後から救援ボランティアで災害現場に伺い同時に県民のみなさんの要望をお聞きしてきました。救援・復旧から復興へと課題が移ってきた中で、県民、被災市町村からは、国の災害復旧事業にかからない分野で、県や市町村の支援を求める声が数多く出されました。
 小規模な農地災害の相談は各地で数多く出されています。また、大きな借金をかかえたまま破壊された農業用ハウスやボイラーを前に、涙ぐむ若い農業後継者の声。濁流により根こそぎ倒されたりした果樹を前に、天災だから保障とは言わないが、このミカンやブルーベリーの木を植え替えてもう一度がんばることに、ぜひ支援がほしいとの農家の声。動かなくなった軽トラックや農機具などを新たに買いそろえることは年も年だしとても困難だという、元気に地域をささえている農家の声。また、地域に一つしかないお店が再開できないとなると地域が元気をなくしてしまう、なんとか再開してもらって地域の活力を取り戻したいという自治体首長さんの声。これらの切実な声にこたえるべく、今回の県単補助事業や補正予算が組まれたことを歓迎したいと思います。

・農業再開支援の内容と森林作業道の復旧対策
 そこで、農業再開支援策としてすすめようとしている支援内容について答弁を求めるとともに、また補正予算額は要望に充分こたえられる予算規模になっているのか、林業の分野では森林作業道の復旧対策を求める声が多く出されていますが、どう対応してゆくのか、以上の点について農林水産部長よりお答え願います。


《答弁》農林水産部長
 農業の復旧支援について、よりきめ細かく、被災者視点での復旧、復興につなげていくため、三本柱からなる再開支援策を12月補正予算でお願いしているところでございます。
 被災みかん園等での改植や農業用ハウス等の復旧、農協が行う農業用機械の貸出をつうじて営農再開を支援する営農再開緊急支援事業、被災地の担い手組織が行う農地の再利用活動に関連する農業機械・施設の整備を支援する地域農業支援対策、国の災害復旧の対象とならない事業費40万円未満の小規模災害復旧や、田畑の転石除去などの工事を支援する農業生産基盤復旧支援事業での必要額をお願いしているところでございます。
 なお、必要な事業につきましては、平成24年度予算におきましても引き続き実施していく考えでございます。
 また、林業の作業道につきましては、森林施業を実施する上で重要な施策であることから、現在、国の森林整備地域活動支援交付金を活用して復旧に取り組んでいるところでございます。
 今後とも、被災者の声を聞きながら、引き続き、きめ細かく、かつ充分な対応が行えるよう、地域の農林水産業の方や市町村と一体となって、一日も早い復旧・復興を図っていきたいと考えております。


・中小業者支援策の手続き簡素化
《質問》松坂英樹 県議
 続けて商工関係もお聞きします。補正予算では県内中小業者への支援として、融資制度にくわえて補助制度ももうけられました。あわせて独自補助をする市町村も出てきています。災害から時間がたっていて、すでに補修をしたり施設を買い換えたりという対応を済ませている事業者もあるでしょうから、補助を受ける際の手続きがスムーズにできるように工夫していただきたいし、また独自補助をする市町村と県とで二度手間になったり複雑にならないよう配慮すべきだと考えますがいかがでしょうか。商工観光労働部長にお答え願います。


《答弁》商工観光労働部長
 この度の台風12号において被災された事業者の方々の事業再開を支援するため、県独自の支援制度を創設することとしたところでありますが、この制度の運用におきましては、市町村、商工会等とよく連携しながら、手続き上、申請者にできるだけ負担のかかることのないよう配慮して参りたいと考えております。


《要望》松坂英樹 県議
 両部長から答弁をいただきました。これまでに前例のない画期的な支援に踏み込んでいただいたわけですから、くじけそうになりながらも必死に立ち上がろうとしている県民と、復旧・復興の業務にテンテコマイしている市町村の声に丁寧にこたえ、多くの県民に喜んでいただけるようしっかりと取組んでいただくことを要望しておきます。


(2)県営ダムの治水能力向上のために
・県営ダムの治水能力向上への取組み状況
《質問》松坂英樹 県議
 引き続いて県営ダムの治水能力向上の取組みについてお伺いをします。知事は9月議会の質問に対し「県内利水ダムに治水への協力を働きかける」と答弁され、部長からは県営ダムの運用改善・本体の改良を求めた質問に対し「ソフト対策、河川改修も含めて効果的な対策を検討する」との答弁がありました。いずれもたいへん積極的な答弁であったし、アクションプログラムにも中期対策として位置づけ早期対応をめざすという姿勢も評価したいと思います。
 私はこの間、他県でのダムの改善事業を視察してきました。鹿児島県にある鶴田ダムでは、多目的ダムの水位を下げて治水容量を大きくしようと、ダム本体のより下のほうに放流ゲートや発電用取水口を追加する改良工事が行われていました。また、熊本県の氷川ダムではダム本体をかさ上げする改良工事によって治水容量を増やしていました。ダム問題には、それぞれの地域の条件や経過のもとに、様々な努力や試み・模索が全国各地でおこなわれていることを実感しました。
 和歌山県では、県営多目的ダムに設置された水力発電所を民間に売却する計画が出された7年前、二川ダムをもつ私たち有田川流域では大問題になりました。地元自治体や議会からも一斉に反対や慎重な対応を求める意見が上がりました。ダム直下の二川地区の集会所では区長さん初め多くの区民の方からご意見を伺いましたが、次々に怒りを表明されました。二川地区はダム建設には反対だった。当時、ダム反対町長まで誕生した。しかし、洪水対策のためにと言われて泣く泣く同意をしたんですと。発電所を売り渡すのであったら、ダム建設時の約束違反だ。一からやり直しをせんなんことになる。発電がもうからんのやったら、もう発電やめて、どうか防災ダム一本にしてほしい。これが圧倒的な声でした。
 これに対し県は、発電所は売ってもダムは県営であり治水は県が責任を持つと答え、関西電力への売却にあたりダム運用について協議し、二川ダムでも運用水位を下げ、予備放流や洪水調節でも治水能力向上の改善をはたしてきた経過があります。
 県営ダムの治水能力向上のためには関西電力をはじめとする水利権者等との調整が必要ですが、決してゼロからのスタートではないはずです。これまでの経過やこの度の大災害をふまえて、県民の安全という立場からしっかりと取組んでいただきたいと考えています。
 知事は9月議会後、早速関西電力へも行っていただいたと聞いていますが、県営ダムの治水能力向上のための取組み状況についてまず答弁を願います。


《答弁》知事
 議員ご指摘のとおり、和歌山県の県営のダムについてはですね、利水部分とそれから治水部分がありまして、治水部分を上手く使ってそれで下流の堤防等々ももちろん使って、それで治水がちゃんとできるという想定を作っておったわけでございます。
 ところが現実に、その想定を上回るような水が来てしまったもんですから、最終的には、分かりやすく言うと、入ってくる水と出ていく水が同じになってしまったという時期が出てしまいまして、被害も発生したわけでございます。
 今回はそれを受けましてですね、大規模出水によってダムがあふれることが将来予想される時にはですね、利水をしばらく犠牲にしてもダムの貯水位をですね、予め下げて、それで治水の機能の向上を図って、下流の安全を確保するということはどうだろうかということでですね、関西電力にそのような要請を県がやった時にはですね、協力して下さいというような申し入れをいたしました。
 私自身もですね、関西電力が停電の復旧に随分ご尽力してくれましたんで、それのお礼を申し上げると同時にですね、社長にお目にかかった時にこのようなことを申し入れて、その場でですね、それはごもっともであります、県から要請があったら我々は下流の方々の安全を守るのがものすごく大事な要請ですから協力させてもらいます、というお話を頂いて、原則はオーケイになっております。
 あとは、実際にどのような場合に、どのような手続きで、あるいは方法で、タイミングで、それからまた放水する時にどういう事故処理を役割分担でやっていくか、というようなことをですね、きっちり決めときませんと気持ちだけではいけませんので、そういうことを今詰めているところでございます。


《質問》松坂英樹 県議
 知事からは、原則オーケイという返事もいただきながら、具体的なところを詰めているという話をいただきました。この答弁をふまえた上で、もう少し具体的な課題で質問を続けたいと思います。


・ダム操作規程の改善を
 県は2002年から七川ダムで、加えて2005年の発電所売却にあたり七川ダム・二川ダムで「運用規程」を定め、ダムの操作改善をすすめてきました。しかし、これは本体である「ダム操作規則」には手をつけずに、いわば「接木」をしたような形になっているんですね。このことにより、せっかくの運用改善が、本則からはずれた限定的な操作というような扱いともなっていて、本来は操作規則をしかるべく改定すべきだと考えるものです。
 また、現実的には洪水直前に、あわててダム水位を下げようとしても、操作規程上も施設の能力的にも思うように予備放流できない状況もあります。
 今回の災害の教訓をふまえ、「制限水位」や「予備放流水位」「予備放流方法」などをしっかりと検証・検討・調整し、「操作規則」そのものの改定にも踏み込むべきではないでしょうか。県土整備部長の答弁を求めます。


《答弁》県土整備部長
 ダムの操作規則でございますが、ダムの当初の計画に基づきまして、ダムの操作の基本となるべき事項及びダムの操作の原則について定めているものでございます。
 他方、運用規程は、その他、ダム管理上必要な事項を定めたものとして、操作規則の適用を受ける範囲を超えた緊急的な操作等について、定めたものでございます。
 現在、関西電力と今回のような大規模洪水時の緊急的な操作について協議中でございますので、その結果を踏まえまして、運用規程を含め操作のルールというものをきちんと整理いたしまして、必要な見直し等おこなってまいりたいと考えております。


《再質問》松坂英樹 県議
 部長は「必要な見直しを行なっていく」ということでしたが、具体的な話ができなかったのでもう少しお話をしたいと思います。
 規程の上位・下位の位置づけからすれば、規則と運用規定はそういう関係になりますが、今回私が質問で取り上げたのは、二川ダムの運用規程の整備というのは、そんな部分的な動機ではなかったということです。発電所売却という歴史的な節目にあたって、ダム建設の歴史や、近年の集中豪雨など気象条件の変化に対応すべく、今後ダムはどうあるべきかという議論のうえで、地元から出された要望にどうこたえるかと当時、知恵を出してつくったダム運用なんですね。
 売却前の2004年12月議会、操作規程の見直しを求めた私の質問に対し、知事答弁では、「御指摘の二川ダムにつきましては、従来よりもさらに洪水対策を重視したダム運用が行われるよう、現在、ダムの操作規定の見直しを行っているところであり、御質問にありましたが、来年三月末までに必要な検討及び関係部局等との調整を行い、来年の出水期から適用できるよう、現在鋭意作業を進めているところでございます」となっています。
 このように、ダム操作全体をしっかりと見直した作業をしたわけです。しかし、発電所売却の期限が3月になっていて、5月の出水期からすぐにダム運用を開始しなくてはいけないという時間的な制約もあり、国の認可を得る時間的余裕がなかったことや、アロケーションとよばれる費用分担を今後どうするかというようなすぐに決着できない課題もあったので、ダム操作規程の下に位置する「運用規程」で改善をルール化したという当時の制約がありました。
 今の実際のダム運用はこの新しい運用規程も生かされ、ダム水位についても、関西電力との話し合いのもと、ダム操作規則の制限値よりもうんと低いレベルで運用してくれるようになり、地元自治体・住民はとても喜んでいます。
 ですから、ダム操作規則で定める重要な事項である、ダムの水位をどれくらいにするかということも、また洪水前にはどこまで予備放流するかということも、実態としては改善が前に進んでいるのです。そして先ほど申し上げたように、アロケーションと呼ばれるダムの費用負担割合も、新しい洪水対策重視の今のダム運用での発電実績、当然その発電の実績は少なくなるはずですから、そういうことに基づいてこのあいだ発電側の費用負担を下げて改定しているではありませんか。だから、本来、県が約束していたダム操作規則という本体部分までしっかりと見直す条件はあるし、やろうじゃありませんか。
 つまり、もともとやろうとしていたことを、今回の災害をふまえて、いっそう洪水対策を強化するように、全体としてキチンと整理しましょうと提案しているんですがいかがですか。


《再答弁》県土整備部長
 先ほど申し上げましたとおり、具体的な手続等につきまして関西電力と協議をしているところでありまして、まだその中身が決まっていないところがあります。決まりましたら、きちんとそれが機能するように、そのためにはどのようなルールを規定していくべきなのかをしっかり考えまして必要な見直しをしていきたいと考えております。


《要望》松坂英樹 県議
 部長からは調整中だという話でありましたから、これから県営ダムそれぞれの治水能力向上のために、ダム操作をはじめとするソフト対策やハード対策、そして何よりも大事な河川改修と大きな枠組みで取り組んでいただくわけですから、発電所売却時の経過も含めてしっかりと検討していただきよう強く要望して、次の質問に移りたいと思います。


・ダム堆砂の現状と対策
《質問》松坂英樹 県議
 ダムの堆積土砂は、ダムの治水能力を減少させる深刻な問題です。堆積土砂はダム上流部からたまってくるので、治水容量を減少させます。少ない流入量と思っていても、計画より水位が上昇してしまい、ダム操作を狂わせかねません。特に椿山ダムの堆砂はこの数年間でかなり進んでいると考えますが、県営多目的ダムの堆砂状況と今後の対策について県土整備部長より答弁を願います。


《答弁》県土整備部長
 一般にダムの堆砂は、完成当初は進行が早く、年数の経過に伴いまして貯水池周辺が安定し、進行が遅くなってまいります。
 椿山ダムでも、昭和63年の完成後10年間で約220万立方メートルの堆砂がありましたが、近年10年間では約110万立方メートルと堆砂の進行が半減している状況でございます。
 ダムでは予め100年分の計画堆砂容量を確保しておりますが、椿山ダムの現状の堆砂率は約44%、二川ダム、七川ダムについてはそれぞれ約66%、約49%となっております。
 このまま現在のペースで堆砂をすると仮定しても、椿山ダムではあと約50年間分、二川ダム、七川ダムでもそれぞれあと約40年間分、約120年間分の堆砂容量が残っていることになります。
 今後、堆砂の進行が遅くなっていくことを考えますと、さらに長期間分の容量が残っていることになりますが、毎年の調査結果を踏まえまして、対策が必要となればその時点で対応してまいりたいと考えております。


《要望》松坂英樹 県議
 部長からは椿山ダムについては44%だという数字も示されました。大した事はないというトーンで、最近は減ってきているという答弁であったと思います。
 私は、この23年ですでに44%も溜まっているということは、かなりの数字だと思っています。あと残り何年間分という話しもあり、古座川の堆砂容量がすいぶんあると言われましたが、これにはわけがあるんです。
 古座川の七川ダムは、ダムの最上流部の堆積土砂を毎年少しずつですが取っています。だからこの間すっと増えていません。ところが椿山ダムも二川ダムも堆積土砂を取るという仕事はまだ一切していません。ですからどんどん増えていっている。そこの差が出ていると思います。これはそろそろ考えないといけない時期に来ていると思います。「毎年の調査結果を踏まえ」とおっしゃいましたが、今回の台風災害では山々の谷から大変な量の土砂が河川に流出しています。それがダムにどっと押しよせていることと考えます。この秋から冬にかけて各ダムで堆砂容量の調査が行なわれるはずですから、その最新の数字をしっかり踏まえて今後の対応をしていただくよう要望します。


・二川ダム常時放流施設の渇水放流への活用について
《質問》松坂英樹 県議
 次に、二川ダム常時放流施設の渇水放流への活用について提案をさせていただきます。洪水前に予備放流で思い切って水位を下げようとする時、雨量が予想を下回れば水位が回復されずに、発電や水道、農業用水に迷惑をあたえてしまうので判断がむずかしいという話がよく出てきます。
 ダムは歴史的には利水用に水を貯める施設としてスタートしたものですから、古い設計の多目的ダムは発電など利水への比重が大きく、多くの水を溜め込めるよう洪水調節の放流ゲートが上のほうにあるのです。そのため新たにダムの下の部分に放流口を追加する改造をしている所もあるというのは先ほども紹介しましたが、二川ダムもゲートより下に活用できない水がたくさん貯められたままになっているのです。
 実は二川ダムには、発電用取水口や放流ゲートより下の水を使える条件があると考えています。それが常時放流用の取水口なんですね。二川ダムでは、発電所がダムより遠くはなれた下流にあり、ダム直下から発電所の放流口までは川に水が流れない状態にありました。悪臭を放つ、干からびた川に「水の流れをとりもどそう」との地元の声にこたえて、河川環境改善対策としての常時放流施設がようやく実現したという経過をもっています。
 この常時放流のための取水菅は、実は洪水放流ゲートより2.4メートルも下に空けているんですね。これなら通常は活用できない水位の水を放流できる条件があります。
 時代の求めに応じて治水能力を上げようと、ダムの運用水位や予備放流水位を下げてゆく工夫をすすめてきたことと合わせて、この施設が小さな改造によって水位低下時の渇水放流施設の役割がはたせるようになれば、環境改善とともに水道水や農業用水などの渇水対策として、利水に対する、いざというときの効果が期待できると考え提案するものですがいかがでしょうか。県土整備部長の見解を求めます。


《答弁》県土整備部長
 維持放流設備は、二川ダム直下から岩倉発電所の放流口までの約6.5kmについて、洪水調節等でゲートから放流する場合を除いて、ダムからの放流がないことから、淀みによる水質の悪化等の改善を図るため、ダム水環境改善事業により平成9年度に整備されたものでございます。
 議員ご提案のように、この維持放流設備を渇水放流に活用するためには、取水位置の変更や取水口の拡大が必要となってきますので、コスト面等の課題があると考えております。


《再質問》松坂英樹 県議
 少し能力的に難しいという趣旨の答弁であったと思いますが、その能力を少し上げる工夫ができないか検討をいただきたいと思うのです。
 なにしろ有田川では、渇水時にはポンプでダムの水を放流しようかということまで検討されたぐらいですから、今日提案したこともふくめ、幅広い対策方法の検討をお願いしておきたいと思います。


・切目川のダムと河川整備計画について
《質問》松坂英樹 県議
 続いて、既設ダムではなく計画中の県営ダムの課題として、切目川のダムと河川整備計画について伺います。今回の豪雨を経験して、現在計画中の切目川のダムと河川整備計画は、そのままで大丈夫なのですかという疑問の声があります。県として住民に充分に説明し答えてゆくとともに、ダム建設予算優先で河川整備が後回しにならないよう留意すべきだと考えますが、県土整備部長いかがでしょうか。


《答弁》県土整備部長
 台風12号による降雨量は、長期的な視点に立った河川整備の基本的な方針を定めた切目川水系河川整備基本方針の計画雨量を数ミリ上回る程度でほぼ同等でございました。
 現在、切目川水系河川整備計画に従いまして、切目川ダムは基本方針の水準で建設を進めております。また長期間を要する河道の整備は、一定の効果が早期に発現できるよう、段階的な水準を設定しまして順次進めておるところでございます。
 今後、ダム建設と併せて河道整備を進めることによりまして洪水への安全性は向上していくことになりますが、整備の途中段階や計画規模を上回る洪水にはハード整備だけでは対応できませんので、洪水氾濫レベルに応じた浸水想定区域図の策定なども併せまして、ハード・ソフト一体となった治水対策に努めてまいります。


(3)ダムの「安全神話」を克服し、河川整備の抜本的強化を
・「ただし書き操作」による危険性周知を
《質問》松坂英樹 県議
 「28水害を2度と起こさないために」などのスローガンのもとダム事業が計画された流域では、ダムの「安全神話」ともいうべき「ダムができたからもう水害はおこらない」という意識が行政にも住民にもあったと思います。計画を超過する洪水は必ずおこるし、洪水から命を守るための準備が日ごろから行われていたかが問われているのではないでしょうか。
 ダムが通常操作から「ただし書き操作」と呼ぶ非常時操作に切り替わるときには、急激なゲート操作による衝撃波がダム下流を襲うこととなります。日高川の椿山ダムは、洪水が右肩上がりに増加しているタイミングでただし書き操作にはいり、洪水の増加に追いつこうとゲート放流量を一気に増やさざるをえなくなり、その激烈な例だったと言えるでしょう。
 ところが、ダムが非常時操作に移行する時は重大事態だということが、平素から、また災害の起こるその瞬間ですら、地元自治体にも住民にも充分に伝わっていたでしょうか。スピーカーからは「毎秒何トンまでの放流をします、水位の上昇にご注意ください」というような通常操作の延長線と感じてしまうような放送しか流れませんでした。深夜とうとう日高川町長自らマイクをもって「避難してください」と叫んだ緊迫感ある対応が、ようやく住民の避難を本格化させ、命を救いました。これらがもっと夜の早い段階で、ただし書き放流にならざるをえないと判断した夜の7時や8時の段階で動けていたらと、こんなふうに思うんですね。
 最近では、全国的にも、ダムが「ただし書き」操作に突入した年間件数が、以前の10年分にものぼっている、それぐらいの頻度だといわれています。椿山ダムや二川ダムでは、建設以来はじめてのことだったわけですが、このことがもうしばらくは起こらないということではなく、いつおきても不思議ではない近年の気象条件となってきているわけです。
 日ごろできていないことは、いざというときにできません。県として「ただし書き操作」危険性の周知など、「安全神話」克服のため今後の対応はどう考えているか県土整備部長より答弁を願います。


《答弁》県土整備部長
 県管理の多目的ダムでは、毎年、ダム管理事務所と市町との情報伝達も含めた洪水対応演習を実施しておりまして、椿山ダムでは今年も5月に「ただし書き操作」も含めた演習を実施しております。
 また、台風第12号の際、ダムへの流入量の増大に伴って椿山ダム管理事務所では、日高川町への情報提供としまして、9月3日19時に「ただし書き操作」に移行する可能性として「今後、ダムに貯留できなくなり、流入した量をそのまま放流する可能性がある」ことについて説明し注意を促しております。さらに、それ以降、毎正時に流入量と放流量を通知したところでございます。
 なお、河川の水位情報を常時公表しておりまして、日高川川原河(かわらごう)水位観測所では2日23時40分に、高津尾(たかつお)水位観測所では3日2時10分に町の避難準備情報発令の判断目安となる「氾濫注意水位」に達していることを示していたところでございます。
 今回の水害を踏まえ、計画を上回る洪水などに対して、早めの警戒・避難が重要であることなど、これまで以上により一層の周知・啓発に努めてまいりたいと思います。


・堤防のかさ上げや強化と、流出・堆積した土砂の撤去・活用を
《質問》松坂英樹 県議
 今回の大水害により、行政も住民も河川整備の重要性を強く認識することとなりました。県としては、堤防のかさ上げやパラペットの設置等に取組むとともに、堤防を乗り越える洪水も想定した場合、たとえ乗り越えても「破堤」という最悪の事態を避ける堤防強化が求められるのではないでしょうか。建物の耐震補強事業が、地震で傾いたりヒビが入ったりしても、倒壊だけはしないよう補強に取組んでいるのと同じ考え方をとるべきです。
 また、今回の豪雨により河川に流出した大量の土砂、以前から堆積が進んできていた箇所の土砂などを、復旧・復興事業の建設資材としても活用しながら、河床の土砂撤去にこれまでにない姿勢でとりくむべきではないか。県土整備部長の見解を求めます。


《答弁》県土整備部長
 洪水が堤防を越流しないようにする対策としましては、引堤や堤防のかさ上げ等がございまして、各河川の特性に合う方法で、今後とも実施してまいりたいと思います。
 土堤は、洪水が堤防を越えると脆弱になる性質を有しておりまして、越流時の破堤を回避する工法はまだ確立されていないのが現状でありますことから、今後の国等の技術的な動向について注視してまいります。
 次に、流出・堆積した土砂の撤去につきましては、議員ご指摘のとおり土砂の有効活用を図る方向で進めているところでございます。
 砂利の量でありますとか、品質、運搬距離などの条件がよい河川につきまして、堆積土砂の撤去にあわせて資源の有効活用を行ってコストの縮減を図ってまいりたいと思っております。


・台風災害の教訓を河川整備計画や避難計画に生かす
《質問》松坂英樹 県議
 県管理河川では、河川整備基本方針や河川整備計画の策定に順次とりくんでいます。既存の方針・計画も現在策定中のものも、今回の台風災害をふまえて、その目標や計画に充分生かしてゆくべきではないでしょうか。
 また、計画はあくまでの一定の基準に基づくものであり、超過洪水はかならず起こることから、地震や津波の災害対策で議論されているのと同様に、浸水予想や避難計画に今回の大水害の教訓をしっかりと生かしてゆくべきだと考えます。知事の所見と今後の取組みの決意をお伺いします。


《答弁》知事
 河川やダムの整備は、ある一定の洪水規模を対象に実施されておりまして、整備の途中段階や、完成後であってもそれを上回る洪水に対しては対応に限界があります。
 東日本大震災やあるいは今回の紀伊半島大水害は、まさしくそのことを改めて認識させられたと考えております。
 これまでも河川改修や洪水ハザードマップ作成支援など、我々県といたしましても、ハード・ソフト一体となった治水対策に努めてきたところでありますけれども、やはり今から考えますと、ハードに頼りすぎた面があるということは、否めないと思います。
 今回ハードといたしましてですね、特に被害の大きかった河川については、単純復旧じゃなくて改良復旧によって河川の流下能力を従前以上に向上させるとともに、県内のダムにつきましては、これはあのたぶん熊野川もそうだと思いますが、利水容量を活用して治水機能の向上を図るような工夫もしております。
 それでも、それを上回る洪水は起こるかもしれないと考えて、被害を最小限に抑えるための対策として、洪水氾濫レベルに応じた浸水想定区域図の作成とか、洪水予報河川とか、水位周知河川の指定拡大等のソフト対策、あるいはこういうものを全部踏まえまして市町村当局とですね、よく打合せをして、あるいは住民にも周知して、トータルとして防災力の向上に努めなきやいけないと考えております。


《要望》松坂英樹 県議
 知事のご答弁もいただきました。今回の質問は、私が初当選・初質問をした8年前から一貫して取り上げてきた「美しく安全な有田川を」という課題を胸に、ダム運用の改善と河川整備について質問をさせていただきました。ぜひ、県民・地元住民といっしょになって、台風災害を経験した和歌山県として、災害対策・防災対策の強化に取組んでいただけますよう強く要望いたしまして、私の一般質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。



 知事の答弁を聞く、松坂英樹県議(右側)=12月7日
 
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2011年12月県議会、松坂英樹 一般質問=12月7日
2011年12月県議会、松坂英樹 一般質問=12月7日