2019年12月県議会 杉山俊雄 一般質問 概要記録
 中継録画


1.教員の確保について
(1)教員志願者の確保について
(2)「教育に穴があく」問題について

2.英語検定について
(1)中学3年生の英語検定受験を全員受験から希望者に

3.貴志川流域の浸水被害と対策について
(1)紀の川市調月地区における排水対策について
(2)貴志川における今年度の堆積土砂撤去や樹木伐採の状況について
20191211


1.教員の確保について
(1)教員志願者の確保について
《質問》杉山俊雄 県議
 6月の一般質問に次いで2回目になります。早速ですが、議長のお許しをいただきましたので、発言通告に基づいて、一番目の教員の確保について質問します。
 はじめに、教員志願者が年々減少している問題についてです。
 9月1日の朝日新聞に、「公立小中学校の志願者が減ってきている。教委側は「『教員の質に影響が出かねない』」との記事が掲載されました。
 文科省のまとめによると、2018年度の採用試験の受験者は10万5千人で、12年度の12万2千人から6年間で約1万7千人が減少しています。朝日新聞が各地の教育委員会に調査したところ、19年度は約9万8千人でさらに落ち込んでいます。同時に採用者は増えているため、採用試験の競争率(倍率)は下がっています。
 採用試験の競争率はピークが2000年度で、小学校が約12.5倍、中学校が17.9倍でした。その後は減少が加速化して、18年度は小学校が3.2倍、中学校が6.8倍でした。朝日新聞の調査では19年度はさらに落ち込み、小学校が約2.8倍、中学校が5.5倍でした。
   和歌山県       受験者数     合格数    倍率
     H27       1849     387    4.8
     H28       1697     357    4.8
     H29       1701     389    4.4
     H30       1549     306    5.1
     H31       1579     405    3.9
 和歌山県でも、2015年度の受験者数は1,849名でしたが、19年度では1,579名となり、4年間に270名減少し、全国と同様、減少傾向にあります。
 競争率は2015年度から2019年度までの推移をみると、小学校では3倍から2.4倍に減少し、中学校では高いときで9倍、低いときで6倍と年度によって波がありますが、全体として4.8倍から3.9倍に下がっています。
 競争率が下がっているのは受験者が減少して、合格者が少し増えているからです。
      2015 2016 2017 2018 2019
・小学校  3.0  2.6  2.4  2.9  2.4
・中学校  5.9  7.2  7.3  9.0  5.9
 文教委員会で宮﨑県に調査に行きましたが、宮崎県では小学校の競争率が1.2で、希望すれば誰でも教師になれる状況にあります。有能な教員が採用されるか不安を覚えます。
 全国的にも、和歌山県においても教員志願者が減少しています。同時に競争率も低下しています。この背景とその対策について教育長にお伺いします。

《答弁》 宮﨑教育長
 教員志願者が減少している背景とその対策についてでありますが、マスコミなどの影響により学校現場は厳しいという意識が学生に広がっているということや、好景気で民間企業の採用意欲が旺盛となっていることなどが考えられると思います。
 本県において、競争倍率については、近年の大量退職に伴う大量採用によりまして、若干の低下傾向が見られます。一方、志願者数については、一時に比べると減少しているものの、深刻な状況ではないと認識をしております。
 そうではありますが、採用説明会では私自身が赴き、教員の魅力を伝えるとともに、教員が生き生きと働ける環境づくりへの取組をアピールするなど、様々な機会を捉えて、積極的に教員の魅力を発信しているところです。
 さらに採用試験の日程を短縮するなど、試験制度の見直しも行います。
 こうした取組などを充実させることにより意欲溢れる優秀な志願者の確保に努めてまいります。

《コメント》杉山俊雄 県議
 競争率が減少しているのは答弁の通り、団塊の世代の大量退職で新規採用を大量に採用しているからです。その上、志願者が減少しているからです。
 志願者が減少しているのは答弁の通り、民間企業の好調と教員の長時間労働による学校のブラック化があります。
 教育長は「志願者数の減少は深刻な状況にない」と受け止めていますが、本当にそうでしょうか。もっと深刻な状況ではないでしょうか。
 それは、和大教育学部の教授が「私のゼミの生徒は教師を志望しません。学校がブラックでやりがいも魅力も感じないから」と言っているからです。
 教育学部の生徒ですら、「今の教育に魅力を感じていない」ということを真剣に受け止めるべきではないでしょうか。今の若者は残業がなくて、生活をエンジョイしたいと思っているのです。
 先日、人権・少子高齢化問題等対策特別委員会の調査で、福岡県の労働者ファーストの中小企業を訪問しました。この企業は30年前から労働基準法を遵守し、働きやすい職場環境作りに力を注いでいます。トップの姿勢で①完全週休二日制、②有給休暇の完全消化、③残業ゼロ・休日出勤ゼロ、④育児休業100%を実践し、労働者ファーストでも営業利益を上げていると聞きました。これまでの慣習や常識にとらわれないで、大胆な業務の削減と人員を増やしてゆとりを実現しています。大胆な業務の削減では、営業日報を止めノートで連絡、会議をやめて関係者による打ち合わせで調整するなどして時間短縮を生み出しています。また、人員を増やして一つの業務を複数で担当することによって、誰かが休んでもその穴を埋められるように工夫しています。会長は「残業をゼロにするには思い切って業務を捨てることですよ」と言っていました。その結果、毎年2~3名の新規採用枠に数百人が殺到するようになっています。
 県教委にもこのような大胆な業務削減と人員増の政策をお願いしたい。トップの姿勢で出来るはずです。
 それから大学などで、生き生き働ける環境作りをアピールしているリーフレット「和歌山県で教員として働きませんか ―夏休みは、たっぷり30日―」についてですが、知事はこの「リーフレット」に関連して、「授業時数や授業日数確保のために夏休み縮小に反対し、長期に確保すること」を提案しています。
 大賛成です。そうすれば教師たちは、30日の夏休みをたっぷり利用して自主的な研修に取り組めます。教師の教育力や人間力を高めることができ、わかる授業づくりとして子どもたちに還元できます。ウィン・ウィンの関係がつくれます。
 また、知事は子どもたちに個別の補習を望んでいます。しかし、今の教職員の勤務状況では、子どもたちとゆっくり向き合える時間の確保が出来ません。そのため知事は「生徒に接する以外の雑務仕事から先生を解放すること」を提案しています。子どもも先生も待ち望んでいます。学校職場の努力だけでは限界です。
 知事は「県教育委員会を挙げて皆で努力中」と言っています。先ほど紹介した企業のように、労働基準法を遵守する職場環境を是非実現してください。トップの姿勢で実践できるはずです。よろしくお願いいたします

(2)「教育に穴があく」問題について
《質問》杉山俊雄 県議
 次に、「教育に穴があく」教員不足の問題について質問します。
 教員が足りなくて、産休、育児休業や病休の代替教員が見つからない。年度はじめから担任がいないなど「教育に穴があく」事態が全国で常態化しています。
 朝日新聞の8月5日朝刊で取り上げられている同社の全国調査では、公立小中学校において、5月1日時点で1,241件の未配置があるということでした。最多は熊本県の103件、続いて茨城県の102件、愛知県は92件、宮城県は85件、神奈川県は82件となっています。
 東北地方のある小学校では、6月から産休をとった特別支援学級の担任の代わりが来ず、教務主任が担任を受け持ち、担任の仕事を終えてから教務主任の仕事を行ったため、1学期は夜9時過ぎまで職員室にいる日々が続いたということです。本県においても、必要なのが分かっている産休の補充が決まらない状況があると聞いています。県教育委員会の責任が問われるのではないのでしょうか。
 また、同社の報道では、富山市の小中学校において4月1日時点で35人の講師が不足し、4月に学級担任を発表できなかった小学校もあるということでした。
 本県においても、担任が決まらないという状況には至っていないようですが、紀南地方で年度初めから入るはずの定数内講師が見つからない状況があったと聞いています。配置されるはずの教員が来ない学校では、他の教員がカバーをしており、子どもたちにもしわ寄せがいっています。
 音楽の講師が他の地方で正式採用され、それに代わる教員が見つからず非常勤講師を雇っていると聞きます。ある地方では、途中退職した教員の代わりに元校長や市町村の支援員を任用していると聞いています。
 また、事務職員の欠員補充を探すのに大変な思いをしている市町村教育委員会もあったと聞いています。県教育委員会の採用計画の甘さが問われるのではないでしょうか。
 このような「教育に穴があく」事態を招いている責任は県教育委員会にあると思いますが、この背景とその対策について教育長にお伺いします。

《答弁》 宮崎教育長
 議員ご指摘の「教育に穴があく」ことについては、学校に必要な教員が配置されていないという理解であると考えます。
 教員の配置が逼迫する要因といたしましては、近年の大量採用により、かつてと比較して講師登録者が減少したことや、子育て世代の教員の増加により補充教員の需要が増していることなどが考えられます。本県においては、教員の確保に懸命に取り組み、児童生徒の教育活動に支障がないようにしています。
 県教育委員会といたしましては、教員の質を引き続き確保できるよう、将来を見通した採用計画を立てるとともに、教員志望者の拡大に向けた広報活動や説明会の開催、退職教員等への呼びかけなど、あらゆる方法を用いて、教員の適正配置に取り組んでまいります。

《コメント》杉山俊雄 県議
 「穴があく」原因の一つは「定数崩し」です。
 2001年の地方分権改革で義務教育の国庫負担制度が変更され、県教育委員会が人件費を抑制するために、正規教員を1人雇うのではなく、正規1人分の費用で安上がりの非正規教員を2から3人雇い、細切れで働かせていることが背景にあります。
 正規教員を配置すべきところを、最初から多くの非正規の講師等に頼り、答弁の通り、年度途中で「穴」があいた時に入る補充の人がいなくなるのです。
 和歌山県の過去6年間の正規職員・定数内講師・非常勤の人数変化をみると、教員定数は児童・生徒の減少に伴い230人減少しているのに対し、正規教員は376人も減少しています。定数内講師は343人~412人と年度によって変動が激しく、非常勤講師は100人も増加しています。
 このように、教員定数の減少以上に正規教員が減少し、非正規教員が増加しているのです。非正規教員がいない状況が常態化していることがわかります。
   年度     教員定数    定数内講師   非常勤     正規教員
 30 │ ,570 │ 390 │ 380  ,800
│ 29  ,609 │ 357 │ 369  ,883
 28  ,631 │ 403 │ 333  ,895
 27  ,639 │ 412 │ 326  ,901
 26  ,718 │ 393 │ 336  ,989
 25  ,731 │ 391 │ 289  ,051
 24  ,800 │ 343 │ 281  ,176
 二つ目は免許更新制です。
 2009年に始まった制度で、10年ごとの更新講習を受けなければ免許が失効します。
 若年退職した人は「お金も時間も係るので」免許を更新しません。永久ライセンスの人以外、免許を失っていくので「供給」できる退職教員はだんだん少なくなっていきます。このことが「教育の穴」に拍車をかけています。
 国は更新制という厳格な制度を使いながら、一方では県には免許を失効している人に臨時免許を発行することを許可し、免許外の教科を教えさせることに矛盾を感じます。
「体育の先生に『あなた、日本人なんだから国語出来るでしょう』といって3年有効の国語臨時免許証を発行して国語科を教えている」実態をNHKラジオで放送していました。
 子どもたちがかわいそうです。非正規の先生は1年ごとに職場が変わります。子どもたちの顔を覚えたと思ったら次の学校で、また一からです、教育力はつきません。
 「子ども一人あたりの教員数を増やして教育力を上げる。授業担当時間を減らしてゆとりある教育活動を実現する」このことが大切では無いでしょうか。
 三つ目は答弁の通り、団塊の世代の大量退職とそれに伴う新規採用の大量採用による教員不足です。
 大量に採用した若い先生方の育休や産休の補充教員がない。それと、長時間労働によるストレスや体調不良による病休や精神疾患の休職者が多いことも、教員不足に拍車をかけています。精神疾患による休職者は、全国で5,000人ほどいます。
 原因ははっきりしています。まずは、人を大切にしない「定数崩し」を止めることです。「定数崩し」によって正規から非正規へ、常勤から非常勤へという「二重の臨時化」が拡大し、教育の困難性を生み出しています。足りない分を非常勤で埋めるという構造的な問題を変えなければ、教員不足や未充足は解消されません。先の企業の会長は「組織は人で成り立つ。働く人たちの幸せを犠牲にしてまで成長を追い求める必要があるのか」と語っています。
 それと、年々教員免許を失効させる天下の悪法「免許更新制」を廃止することです。そうすれば「教育に穴があいた」ときの補充は確保できます。
 「教育に穴があく」問題が全国的に常態化しているのは、先の述べたように「定数崩し」と「免許更新制」という構造的な欠陥を抱えているからです。
 「大量採用で、講師登録が減少している」というように捉えていては、来年の採用計画は「甘い見通し」になるのではないでしょうか。
 教育長は「本県においては、教育活動に支障がないようにしている」と答弁していますが、私は各校の具体的な状況を詳細には語っていませんが、現場は「穴埋め」のために、教員探しに奔走しているのです。しっかりした採用計画で、教育に穴が開かないようによろしくお願いしておきます。
 また、国会の付帯決議で示された財源確保を自治体に対してきちんと実施するよう国に強く求めてください。併せてよろしくお願いしておきます。


2.英語検定について
(1)中学3年生の英語検定受験を全員受験から希望者に
《質問》杉山俊雄 県議
 教育について最後の質問は、英語検定(実用英語技能検定検査)についてです。
 中学3年生の英語検定受検を、全員受検から希望者のみに変更することについて質問します。
 2013年に閣議決定された教育振興基本計画では、国際交渉や国際舞台でリーダーとして活躍できる実践的な英語力のある人材を養成するとしています。まさに、企業のための人材養成です。教育基本法の教育の目的(人格の完成を目指す)と大きくかけ離れています。
 英語教育強化のために、大学入試や生徒の英語力把握、また教員の英語力向上に外部試験の活用をうたっています。まさに、英語教育の民間活用です。
 大学入試の英語民間試験導入は公平・公正な点で問題があり、強い批判をあび延期されています。大学入試共通テストの記述式問題では採点業務の民間委託に致命的な欠陥が指摘され、延期される見通しです。これらは受験生や教育現場の声に応え、即時に中止すべきです。英語力把握の英語検定試験もこの延長線上にあります。
 県教育委員会は閣議決定された教育振興基本計画に基づいて、英語教育改善プランをつくり、2020年までに中学校卒業時点で英検3級以上を50%にすることを目標にしています。
 この目標達成のために、中学3年生全員を対象として、英検受検が毎年10月に実施されています。3年卒業レベルが3級です。10月では一部未履修な部分があるのに3級が基本とされます。県教委は、10月に実施しても十分に耐えられると説明をしています。
 学校にできるだけ全員3級を基本として受検するよう連絡してくるのは50%目標達成のためです。
 全国学力テストでは自分の成績は公表されませんが、英検は一次試験の際に何級を受検するのか分かります。このとき「あの子5級やて」「おまえレベル低いな」というような下げ比べ発言がみうけられます。それで「どうせ落ちるのなら5級より3級の方がかっこいい」と見栄を張ることも起こります。
 リスニングが苦手な生徒は、説明時にもうマークシートに記入しています。筆記でも適当にマークし、考えずに回答している生徒もいます。
 結果発表時に全員の受験級がわかります。担任にとってはつらい瞬間です。教室という場で合否が分かるのは英検だけです。学力テストより生徒の心に傷をつけてしまう制度です。
  3年の英語担当教員は、受験級の確認や申請、教室の割り振り、名簿作成、2次試験の段取り等、余分な仕事に振り回されます。
 先進県の秋田に学び導入された制度ですが、現在秋田県は実施していません。和歌山県は全額公費負担です。都道府県で全額負担しているのは和歌山県以外ほとんどありません。
 受検料は5級2,000円、4級2,600円、3級3,900円、準2級4,900円、2級5,500円です。3級以上には二次試験があり、一次の合否に関係なく受検料を前納するシステムになっています。3級一次を合格する生徒は半分程度なので、残りの半分の生徒は2次試験を受けません。それでも英検協会に英検料を払わなければなりません。
 この手法は、大学入試の英語民間試験導入時にもありました。英検は民間試験で一番早く申し込みが開始され、予約金3,000円はキャンセルしても返金されないとしていました。しかし、強い批判をあび撤回をしています。
 このように、合格しない人の受検料まで事前に徴収する英検協会への財政支出は無駄使いではないでしょうか。すべての子どもが等しく公費負担されるのは良い制度ですが、英検は出来る生徒ほど公費負担割合が多くなります。また、自分を卑下したり、何も考えずにテストに向かうなど、英語嫌いをつくる制度にもなっています。英語の力をつけようとして、逆に格差を拡大しています。教育格差を解消すべき公教育としては、良い制度とは言えません。
 その上、すべての子どもが希望しているわけではありません。全員を対象とせず、以前のように希望者だけが自費で受検すべきではないでしょうか。教育長にお伺いいたします。

《答弁》 宮崎教育長
 県では、英語学習への意欲・関心を高めるために、平成27年(2015年)度より、公立中学校3年生全員を対象として、実用英語技能検定を実施しています。
 国が毎年実施しています英語教育実施状況調査の結果では、3級以上を取得している本県中学校3年生の割合は、全国平均を上回っています。また、過去4年間の受験状況を見ますと、3級より上位級である準2級や2級を受験する生徒が増加しており、英語学習についての意欲が高まっていると考えています。
 今後も義務教育最終学年の全員に、等しく受験の機会を提供し、中学生の英語力の一層の向上に努めてまいります。

《要望》杉山俊雄 県議
 英語教育の充実というなら、英検受験料の2700万円は、英語が教科化される小学校の英語専任教員の増員に活用されることを要望します。


3.貴志川流域の浸水被害と対策について
《質問》杉山俊雄 県議
 貴志川流域の浸水被害と対策について質問します。
 10月の台風19号によって、東日本の多くの河川で堤防が決壊し、氾濫して甚大な被害を被りました。犠牲になった方々にお悔やみと、被災された方々にはお見舞いを申し上げます。また、1日も早い復旧を願っています。
 台風19号による河川の決壊箇所は、国の管理河川では7河川12ヵ所、都道府県の管理河川では67河川128ヵ所、合計140ヵ所です。温暖化の影響で台風の大型化が今後も予想され、河川整備対策を強化する必要があります。
 治水、洪水対策は、人の命を守るために行われます。想定を超える豪雨に対して、堤防が決壊しないように堤防の上部まで補強したり、越水しても堤防が削られないように耐越水堤防対策を行い、被害を最小限に食い止めることが求められます。
 国土交通省は1998年に「越水しても堤防の決壊を防ぐこと」を河川対策の基本方針にしていましたが、ダム建設の妨げになるとして、2000年にこの方針を撤回し、洪水を河道の中に押し込める従来の考え方に戻ってしまいました。これ以降、堤防強化の越水対策を封印しています。
 実際に、堤防強化、河床掘削、河川周辺の樹木伐採などの河川整備事業の予算は、18年度までの5年間で390億円削減されています。一方、ダム事業予算は512億円増額されています。
 この2000年の政令通りに洪水を河道の中に押し込めようとすれば、河道に土が溜まって河床が高くなっていたり、大きな木が生えていることは、河川の維持管理を怠っていることになるのではないでしょうか。
 私は健康のために、竜門橋と新竜門橋の間の堤防を毎日歩いていますが、少し気になることがあります。それは、何年か前に河道の樹木を切ってきれいにしていたのに、最近は河道の樹木か密林状態になっています。そこで、国土交通省近畿地方整備局和歌山河川国道事務所に「紀の川新竜門橋周辺の河道掘削・樹木伐採を行う予定はあるか」を尋ねましたが、「当面はない」という回答でした。貴志川も諸井橋から下流は国管理なので同様だと思います。
 新聞記事に「河道掘削や樹木伐採を実施しているところは浸水被害が少ない」と掲載されていたので大変心配しています。
(1)紀の川市調月地区における排水対策について
 そこで、2017年(平成29年)9月の台風12号で浸水被害が大きかった貴志川流域の浸水対策、特に紀の川市調月地区における排水対策について質問します。
 紀の川市調月の宮ノ前排水機場近くで浸水被害に遭われた方に話を聞きました。
 「27年前に移り住んだ。当時水の被害が心配であったが、地元の人の話では水害はないとのことであった。これまで床下浸水で済んでいた」
 「この日、夕方避難の放送があったが、これまで通りだろうと思い避難しなかった。ドアを開けたら、水が入ってきていた。10分後みるみる上昇し、床上160cm以上になった。二階で一夜を過ごす。朝、水がだんだん引いてきた。宮ノ前排水機は明け方まで動いていたように思う」
 「朝、消防から避難するか尋ねてきたが断った。室内はドロドロで後片付けが大変。一階のテレビ、冷蔵庫、給湯器等電化製品は全滅です。電化製品の点検だけで一機5,000円かかり、車2台は廃車です。見舞金は市から3万円、県から5,000円、自治会から1万円いただきました。保険に入っていなかったので大変でした。27年間住んでいるのでこの地は離れたくない。異常気象の大雨で浸水被害が大変心配です。大きな水害がないようにしてほしい」と話していました。排水機が一日中稼働していたにもかかわらず、床上浸水をしています。これに対し、紀の川市の担当者は「排水能力があまりにも小さく水路の水を吐き出せない」と語っています。
 下流の後島排水機場近くの住人にも話を聞きました。
 「真夜中2時か3時ころ、だんだん水位が上昇してきた。放送はなく、消防から電話で非難するようにとの連絡があった。ドアを開けようとしたが、水圧で開かなかった。ボートよこしてくれといったが、断られた。平屋なのでベッドに座布団を重ねてしのいだ。大変な恐怖でした。早朝4時か5時ころ、水が引いてきた。冷蔵庫がショートして火花が散る。コンセントを抜くが使えなくなる。外の洗濯機、ボンベは浮いていた。軽トラック、軽自動車は水につかるが、バッテリーを変えるだけで済んだ。後島排水ポンプがちゃんと動いていたのか不安で仕方なかった」と怒り心頭でした。
 このような状況のなか、国営和歌山平野農地防災事業では、2028年度(令和10年度)完成予定で農業用、用排水施設の機能回復等を目的とする総事業費456億円の工事が計画されています。
 このうち、貴志川流域の右岸では、東貴志排水機場の新設と、高嶋排水機場の改修などが計画されています。左岸では国営事業に関連し、県が丸栖地区・前田地区で排水機場の新設を計画しています。
 和歌山平野農地防災事業の計画では、10年に1度発生する3日間連続雨量254mmの降雨を対象としています。そこで、過去の水害被害について調べてみました。
 2011年(平成23年)、2017年(平成29年)の台風では、約300mmの雨量なので既存の排水機の限界は超えていると想像できますが、調月地区で2m近くまで浸水するのか疑問に思いました。
 本地区は、貴志川の堤防に並行に農業用水路があり、下流に宮ノ前排水樋門、排水機場、最末端に添田樋門、後島排水機場があり、自然排水あるいは排水ポンプにより貴志川へ排水されており、下流地域に排水が集まってくる排水形態となっていました。
 そのことから、2017年(平成29年)の浸水被害では、今までにない「床上浸水」が多発しており、せっかく事業を実施するのであれば、できる限り被害軽減に繋がるような対策の実施が必要ではないかと考えています。
 そこで、調月地区における排水対策内容について、農林水産部長にお伺いします。

《答弁》 農林水産部長
 県では、貴志川地域も含めた紀の川流域の総合的な浸水対策の実施を国に要望し、平成26年(2014年)度より国営総合農地防災事業により水路の改修や排水機場の設置等が国直轄で実施されてございます。
 議員お話の調月地区につきましては、排水の集中を分散させるために上流地点で毎秒1トンの排水能力を備えた東貴志排水機場を新設することとしておりまして、令和3年度から工事着手する予定となってございます。
 また、同地区では高嶋排水機場の改修も予定をされてございます。
 今後とも、国に対し、地元の声をお届けするとともに、早期完成を働きかけてまいります。

《コメント》杉山俊雄 県議
 上流の東貴志排水機場の新設で下流の排水の集中を分散させる計画ですが、雨量254mmの計画基準は変わらないので、記録的短時間雨量や台風の大型化が予想され、今後大丈夫かと大変心配をしています。この事業計画で被害が軽減されることを祈っています。

(2)貴志川における今年度の堆積土砂撤去や樹木伐採の状況について
《質問》杉山俊雄 県議
 次に、貴志川における今年度の堆積土の砂撤去や樹木伐採の状況について質問します。
 和歌山平野農地防災事業が完成すれば、貴志川流域の浸水被害は軽減されると思いますが、近年頻発する想定を遙かに超えるような大雨では、今以上の浸水被害が想定され、心配の種は尽きません。そうなると「さらなる浸水対策」が地域の要望になります。しかし、計画基準雨量など整備水準の向上は事業制度上、困難ということであります。
 紀の川市長は、10月の大型で強い台風19号による東日本の記録的な大雨・強風による甚大な被害の発生に関連して、安心・安全な紀の川市にするために治水対策は重要であると、振興局主催の交流会で挨拶されていました。
 また、桃山町調月区長会や貴志川区長会から「貴志川の上流、諸井橋までの堆積土砂の浚渫や樹木の伐採また、排水機場の早期着工」の要望が、紀の川市や和歌山県河川国道事務所長に出されています。
 紀の川市の河川担当者は、「国交省事業の紀の川の岩出狭窄部対策とその上流の河道掘削で水位が下がり、貴志川の流れがスムーズになり、今年の盆の大雨の時、丸栖地区の樋門を閉じることがなく、普段なら浸水していたと思われるが消防団を出動せずにすんだ」と、河道掘削の効果を語っていました。
 貴志川流域でも、堆積土砂の撤去や樹木の伐採で、貴志川の河道水位を下げる取組が必要ではないでしょうか。和歌山平野農地防災事業による内水対策との相乗効果も期待できると考えます。
 そこで、貴志川の今年度の堆積土砂撤去や樹木伐採の状況について、県土整備部長にお伺いします。

《答弁》 県土整備部長
 貴志川につきましては、紀の川合流点から諸井橋までの約6キロメートルの区間が国土交通省の管理区間となっております。令和元年度は、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」の予算を活用するなどいたしまして、堆積土砂の撤去や樹木伐採を行っていると聞いております。
 具体的には、現在までに、支川の丸田川との合流点付近において、約4千立方メートルの堆積土砂の撤去が完了しており、今後は、北島橋から高嶋橋までの区間において、約1万9千平方メートルの範囲で樹木伐採を行う予定と聞いております。
 なお、県が管理いたします区間につきましても、国の事業と歩調を合わせながら、堆積土砂の撤去などの維持管理に努めてまいりたいと、このように考えております。

《要望》杉山俊雄 県議
 最後に、治水対策上、効果的と考えられる河道水位を下げる浚渫など河川整備の実施や、計画基準雨量の見直しによる整備水準の向上など、関係各方面への要請活動を、県の指導性を発揮し、取り組んでいただくことを要望しまして、一般質問を終了します。


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