地方自治の理念から外れた強引な「合併おしつけ」の中止を求める

日本共産党和歌山県委員会

委員長 竹内良平

日本共産党和歌山県会議員団

団 長 村岡キミ子

はじめに

 合併特例法の期限(05年3月)をまえに県内各地で市町村合併についての論議が大詰めをむかえています。和歌山県は木村知事を先頭に特別の予算を組み、県内50市町村のうち47市町村までをも「合併重点支援地域」に指定し、市町村合併を強力に推進してきました。しかし現実の合併協議は、国や県の思惑どおりには進んでいません。ここにいたって県は、市町村の首長や職員、議員を対象に「巻き返し」のための工作を始めています。県の市町村課は、財政的な「おどし」ともとれる内容の資料を市町村につきつけ、「合併しない場合は道路事業の採択は減少」などと、およそ地方自治の理念からかけ離れた横暴な態度で、合併のおしつけをはかっています。このような合併おしつけは、木村知事がこれまで表明してきた「合併は自主的なもの」との言明にも反していることは明らかであり、即刻、中止することを求めるものです。

1、現在、市町村は、長期の不況による税収減、国の「景気対策」の名による無駄な公共事業の押しつけによる借金の増加、さらに小規模町村には地方交付税の段階補正の縮小など、財政運営に苦労しながらも、何とか「やりくり」している実状にあります。もし、できる限りの努力をしてもなお、財政運営ができない市町村が次々に生まれる状況となれば、それは市町村に責任があるのでなく、市町村には社会保障や教育など住民サービスの実施を義務づけながら、その財源を保障しない国こそ、その責任が問われなければなりません。このことから考えても、市町村が「合併しないと財政が破たんする」などと、財政不安を理由にあわてて合併に走る必要はありません。
 ところが県は、国の合併推進方針の忠実な部下としての働きを強めています。現在、市町村を説得するために県の市町村課が作成した資料(以下、「資料」)が市町村の首長や議長らに配布されています。この「資料」はその冒頭で、平成の大合併の「背景は財政問題」としているように、様々な理由をつけて「財政的に単独は厳しい」ことを強烈に印象づけるものとなっています。

2、「資料」の最大の問題は、本来、市町村の自治を最も尊ぶべき県の市町村課が、地方自治の理念を投げ捨て、国や県の言うことを聞く市町村は優遇し、方針に逆らうものは切り捨てられても仕方がないとしていることです。それは例えば、道路事業の採択にあたって合併をする場合は「優先」し、「合併しない場合、採点が低くなる」としていることや、「合併の財政需要を支援するしわ寄せとして結果的に合併しない場合、様々な支援・事業格差が懸念」などと述べていることに表れています。本来、公共事業の採択にあたっては「住民要求の切実さの度合い」が最も優先されるべきであるはずなのに、国策に従うか従わないかで判断するというのはあってはならないことです。このことは木村知事が2003年2月県議会で「合併しないところを冷遇するというふうなことは考えておりません」と答弁していることにも反するものです。
 現実には「資料」のいうような採択基準が幅を利かせているわけではなく、例えば「資料」のなかの「合併支援道路」として上富田町の「下川上牟婁線」があげられていますが、上富田町は田辺広域合併協議会から離脱しており、当面、単独でいくしかない状況にあります。だからといって、すでに事業実施中のこの道路建設が、合併しないことを理由に中止されるようなことは現実には考えられないことです。

3、「資料」では「財政的に単独は厳しい」といっていますが、財政予想の点で最大の問題は、この「資料」が、現行の合併特例法の様々な優遇措置が受けられる15年間に限って合併することの有利さを強調したものであり、その後のことは書かれていないことにあります。
 財政運営が厳しい自治体同士が合併すればなぜ財政がなりたつようになるというのでしょうか。それは住民サービスが切り捨てられるからです。例えば合併の先進地として取り上げられる兵庫県篠山市では、合併前には「住民サービスは高く、負担は低く」を合併の基本方針としていましたが、合併後、合併特例債をあてこんだハコモノ建設などで、借金が2倍以上にふくれあがり、そのあおりをうけて数々の住民サービス切り捨てが行われようとしています。篠山市内19校の小学校を13校に統廃合すること、保育所は9園から5園に減らす、公民館の有料化などです。「資料」は合併しない場合には「税・使用料・手数料負担が増加」としていますが、それは現実には合併した場合の姿ではないでしょうか。
 また、「合併しての現状維持か、単独となり住民サービス・負担が大幅に悪くなった末の再建団体化かが問われている」とも述べていますが、こうした決めつけは現実を無視するばかりでなく、単独イコール再建団体という非現実的な脅迫で、市町村を合併に追い込むやり方として絶対に許せません。

4、「資料」は地方交付税の今後の見通しを極めて悲観的に予測しています。政府が、2月6日に閣議決定した2004年度の地方財政計画では、地方交付税(臨時財政対策債を含む)は、県と市町村合わせて実質12%の減となっています。しかし実際は、それぞれの市町村の地方交付税が一律に12%減額になるというものではありません。総務省自治財政局財政課長の「内かん」(1月20日付け)では、「各地方団体における地方交付税の額を見込むに当たっては、前年度の決定額に単純に地方交付税総額の対前年度比を乗じるなどの方法を用いることにより、結果として過大な見積もりを行うことのないよう」との留意がつけられている通りです。
   また、仮に今後、国が大幅な地方交付税の削減をしてくれば、その影響は合併した市町村にも、合併しない市町村にも同等に波及し、合併しない市町村だけ不利な交付税の配分ということはできません。もし国が今度の地方財政計画のようなペースで地方交付税を削減するなら合併していようがいまいが市町村財政が成り立たなくなるのは必至です。確かに現在、地方交付税制度は税収減などで厳しい状態になっていますが、全国町村会は「これ以上の見直し・縮小はおこなうな」と国・総務省に求めています。 和歌山県も、県民の生活を守る立場に立つなら、国の一方的な交付税削減には正 面から反対の立場に立つ姿勢が必要なのではないでしょうか。
 また、小規模自治体の段階補正の縮小という方向はありますが、これが縮小されたからといって「合併しかない」などと悲観的になるほどの額ではありません。こうした点で参考になるのは、03年5月24日付の「広報ながのけん」(長野県発行)です。この広報では、合併問題の「Q&A」をのせ「合併しないと地方交付税が減るって本当?」の質問に「合併・存続ともに減少し16年目に逆転」(合併したほうが交付税が少なくなる)という予測をしめし、そのうえで「県は『市町村の自律』を支援します」と、合併してもしなくても県が支援していくことを約束しています。これが本来の県行政の姿です。

5、「資料」では国の三位一体改革による影響を市町村別に試算しています。そして「都市部が少ない和歌山県では、大半の市町村で補助金削減影響額の方が税源移譲される額を上回る結果となっている。来年、再来年も同様の事態となることが予想され、地方財政への影響は大きい。」と結論づけています。義務教育関係や公立保育所運営費の負担金などの削減は、国民の権利に対する国の責任放棄につながりかねない問題です。教育などに関わる負担金制度が廃止され、一般財源化=「地方の仕事」となれば、国民がどの自治体に住もうと教育や保育のナショナルミニマム=最低基準は保障されるという制度の根本がゆらいでしまいます。「資料」はこうした国の無責任ぶりを当然視するという大きな問題があります。
   しかも前出の総務省「内かん」では、「公立保育所運営費分、介護保険事務費交付金、軽費老人ホーム事務費補助金など、その対象事業を引き続き地方が主体となって実施する必要のある国庫補助負担金については、平成16年度から一般財源化することとし、所要の事業費について、その全額を地方財政計画に計上するとともに、地方交付税の基準財政需要額に算入する。」としています。つまり、これらの事業については、補助金が削減された分、地方交付税で補てんされるという仕組みなのです。国の乱暴な「一般財源化」には大きな問題はありますが、事実をゆがめた「資料」の説明は、市町村関係者を不安に陥れることを狙ったものと考えざるをえません。

6、過疎地域自立促進特別措置法によって県内では19の町村が過疎地域の指定を受けています。また辺地法による辺地を有する市町村は40にのぼり、少ない一般財源でも必要な公共事業を進めることができる過疎債、辺地債の動向はこれらの市町村にとって重大な関心事です。ところが和歌山県にとって死守すべきこれらの制度について「資料」では「今後は先細り」、「いずれはなくなる制度」としています。まず、この姿勢そのものが重大問題で和歌山県の市町村課ならこれらの制度を守り充実させる先頭にたつ姿勢が求められます。そのうえで注意しなければならないのは、国の方針のどこをみても過疎債、辺地債を「今後は先細り」にするとか、「いずれはなくなる制度」などという位置づけはされていないことです。「平成21年に過疎法の延長の有無の判断」としていますが、これは10年間の時限立法だから当然のことです。

7、「資料」では「特に高齢化率や人口減少率、過疎化率が全国トップレベルの和歌山県は全国平均より遥かに上回って合併を推進しなければならない背水の陣」と述べています。確かに高齢化、過疎化の進行などはその通りです。だからこそ、よりいっそう地域に人が住み続けられるようなきめ細かな行政サービスが必要なのではないでしょうか。合併によって広大な地域をもつ自治体がつくられれば、地域の隅々にまでサービスが行き届かなくなり、ますますこの傾向は強くなるだろうということは昭和の合併の教訓でもあります。
 また「資料」では第1次合併(現行合併特例法の期限内)と第2次合併(期限後)の違いを強調し、「第2次での合併は損、かつ容易ではない」としています。しかし問題は今すぐに合併するか、後に合併するかではありません。大切なのは行政と住民が、合併するかしないかをじっくり判断することです。特例法の期限にしばられるあまり住民合意を無視した合併となっては、禍根を残すことになります。
 これまで指摘してきたように、和歌山県が市町村に合併を押しつけている最大の理由は、小泉内閣の「三位一体」改革による国庫支出や地方交付税の削減など、国の地方切り捨て政策にあります。そして、多くの知事や市町村長が国のこうしたやり方に批判と怒りの声をあげています。日本共産党は、和歌山県が国の地方切り捨て政策から県民を守る立場に立つ姿勢に転換すること、市町村の自主性をふみにじる「合併おしつけ」をただちにやめることを求めるものです。

以上

2004年2月20日


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