はじめに

1,担い手の高齢化がすすむ農林水産業
 @―60歳以上が半分以上、農家戸数や耕地面積は減少傾向
 A―高齢化のなかで漁民の減少がすすむ県内水産業
 B―荒廃すすむ木の国≠フ山林ときびしい林業経営

2、国民の食料確保、国土保全策を放棄した亡国≠フ自民党農政
 @―家族農業を切りすて、大規模農家育成策に走る
 A―農林産物、魚介類の輸入増加を野放しに

3、農林水産業の立て直しは、過疎からの脱却、県民の暮らしを守る政治の中心課題 
 農業を中心に地域経済の振興へがんばっている町や村の取り組み

4、住みよい豊かな農山漁村へー私たちの提案
 農業分野

  (1)稲作経営の安定は、農業の基盤―ミニマムアクセス米の輸入を削減し、政府買い入れ量の拡大、下限価格の設定を
  (2)地域の特色を生かして生産力を高め、安全・安心な食料の供給を支援する政治を
  (3)中山間地農地への直接支払い制度の拡充を
  (4)鳥獣害対策は緊急の課題
 水産業分野
  (1)水産業の振興へ漁場の保全と後継者対策、輸入規制を
  (2)海洋資源は人類共通の財産=資源管理と漁業経営安定を
  (3)生産コストに見合う漁価の実現を
  (4)地域の実状にあった水産業振興策を
 林業分野
  (1)国内産材の積極的活用をはかる
  (2)森林保全のためにも間伐の推進と間伐材の有効利用を
  (3)バイオマスエネルギーの活用など環境保全型林業への取り組み
  (4)担い手対策の強化
5、不要不急の公共事業費を削減し、社会保障や価格保障、後継者育成の財源に


農林水産業を守り、豊かで住みよい和歌山県づくりへの提案
                   日本共産党和歌山県委員会 同和歌山県議会議員団 (2001年5月)

はじめに
 県内の重要な産業である農林水産業はいま、ゼネコン受注の大型公共事業を優先し、国民の食料確保を軽視する自民党政治のもとで、大変な危機に直面しています。とくにWTO(世界貿易機関)体制のもとで、急増する輸入農産物や林産物、魚介類が国内、県内産物の価格を低迷させ、農家や林家、漁民のくらしと営業、再生産を脅かしています。一方で、消費者からは「店には外国産のものばかり。安心して食べられる食料がほしい」との切実な声がだされ、安全・安心な食べものをとの願いは強くなっています。
 日本共産党和歌山県委員会と同県議会議員団は、県経済および農林水産業の振興、発展策を県民のみなさんや関係団体、業界のみなさんと共同して探求する立場から、この政策案を発表し、みなさんからのご意見をお待ちしています。

1,担い手の高齢化がすすむ農林水産業
@―60歳以上が半分以上、農家戸数や耕地面積は減少傾向
 1999年の和歌山県の農業粗生産額は1120億円(速報値)で、最高時の1996年から約3割近くも減少し、ミカンやカキ、野菜の価格暴落が農家のくらしと経営に大きな打撃を与えています。。生産農業所得も98年の706億円が99年には523億円へと大きく減少し、農業粗生産額にたいする生産農業所得の割合を示す生産農業所得率は、98年までは50%をこえていましたが、99年は46・7%(全国7位)に落ち込みました。
 県内の農家戸数は1975年の6万1500戸から、90年には4万7200戸、2000年には3万9800戸へと減少しつづけています(農業センサス)。しかも販売農家の減少率が大きく、農業を従とする第2種兼業農家が過半数を占めています。
  耕地面積は、約3万7600f(99年)で、10年前とくらべて4000fも減少しています。米、ミカンの減反政策や価格の低迷などにより、耕作放棄地が85年の560fから2000年には約1900fに急増していることは重大です。
和歌山県は「果樹王国」といわれ、有田地方のミカンや日高・田辺地方のウメ、伊都地方のカキは全国一、二の生産額をあげています。果樹の総粗生産額は98年の791億円(全国1位)が99年には573億円(同4位)となり、前年に比べ27・5%もの落ち込みとなりましたが、それでも農業全体の半分以上をしめています。ウメは全国の約6割を占める生産量をほこっていますが、原因不明の立ち枯れは田辺市では産地の約2割以上に広がり、農家の不安が強まっています。また、中国で大規模なウメの産地が形成されてきており、大きな不安要因となっています。

野菜では、全国第2位の日高地方のサヤエンドウや、和歌山市のダイコン、那賀地方のタマネギなど多様な品目が生産されています。主要野菜の作付け面積は3550fで、78年以降減少傾向が続いています。これは、生産者の高齢化等による労働力不足に加え、花卉等他作物への転換や耕地の改廃等が進んでいるためと考えられます。
水稲の作付け面積は、8510ヘクタール(99年)で10年前より約2000ヘクタールも減少し、毎年減少が続いています。この背景には、政府が米の輸入をおこないながら国内では減反をおしつけ、同時に生産費にもみたない安い米価となって、農家が米づくりへの生産意欲を失ったり、農家の高齢化があると考えられます。
 花卉ではスターチス、カスミ草が全国第一位をしめていますが、花卉の生産そのものは、94年を頂点に漸減傾向にあり、切り花類が長引く不況と輸入切り花の増加による価格低迷の影響が要因と考えられます。
 新規就農者(30才以下)は、1983年の110人を最高に、それ以後100人を超えた年はなく、近年は60人前後で推移しています。特に、東・西牟婁郡全体では1990年からの10年間で20人に過ぎず、同期間に南部川村で66人の新規就農者があったのと比べても、県南部での農業の後退が表れています。

A―高齢化のなかで漁民の減少がすすむ県内水産業
日本人は世界の中でも魚介類を好んで食べる国民であり、動物性タンパク質の39%を魚介類から摂取しています。漁業生産は1984年に1282万トンを記録しましたが、その後は90年代に入って急激に減少、1998年には600万トン台となり、1960年代と同水準にまで低下しています。それに反して、海外からの魚介類輸入は増加し、1999年には342万トン、約1兆7390億円にも達し、魚介類の自給率は55%にまで低下しています。なかでも、和歌山県にも関係するマグロ・カジキ類の輸入は2300億円(99年)にも達しています。政府はルールをもった輸入が必要(「漁業白書」99年版)としていますが、水産基本政策大綱(99年12月)は、資源回復のための減船や休業などをうたう一方で、「意欲と能力のある担い手」に施策を集中する考えを打ち出しています。多くの漁家経営におおきな犠牲をおしつけるこうしたやり方では、水産業と漁村をいっそう衰退させるものになりかねません。

 和歌山県は六百`bの海岸線に囲まれ、過去には水産県として全国的にも高い位置をしめたことがあります。現在も、タチウオが全国1位、イセエビが2位、ムロアジ類、アユが第3位になっているほか、エソ類、シラス、トビウオ類、サワラ類等13種類が全国10位以内にはいっています(1998年)。
 和歌山県での漁業・養殖業の生産額は90年の538億円を最高に減少傾向にあり、98年は海面漁業が279億円、その他養殖業などが80億円のあわせて360億円であり、20年前の水準にまで減少しています。
漁船魚家の漁業所得の全国平均は、92年の272万円が97年には244万円に減っていますが、和歌山県でも237万円という状況です。漁業従事者数は減少・高齢化傾向にあり、73年の8364人から98年には5682人となり、新規学卒の水産業従事者は漁業センサスでは、89年が10人、93年が22人、98年が3人という状況です。漁業世帯数は、4911世帯で、男子就労者の53・7%が60歳以上で、とくに西牟婁・東牟婁地方で高齢化が進んでいます。水産高校をもたないなど後継者対策を行政としてすすめてこなかったことが大きく響いています。
 マグロを主とする遠洋漁業は二百カイリ水域の定着などから減少傾向が続いています。また、最近では勝浦港に入港するマグロ漁船のうち和歌山県船籍の船は357隻(全体の17・4%)と減少しており、漁協の経営にも深刻な影響を与えています。沿岸・沖合漁業は良好な漁場を擁しながらも、相次ぐ埋め立てなどの環境悪化や黒潮の蛇行によって漁獲量も不安定となっています。この十年間を見ても漁業経営体、就労者数、漁船数のいすれも12〜23%減少しており、海面漁業・養殖漁業生産額も減少傾向が続いています。
 こうした厳しい漁業経営の要因には、安い外国産魚介類の輸入急増による漁価の低迷があり、国際的な資源管理のためにも、自由化一辺倒のやり方ではなく、積極的なルールの確立が求められます。また、資源管理の面からの漁場の環境保全、稚魚の放流、増殖など水産資源の回復対策が求められます。日本捕鯨の発祥の地である太地町では、国際捕鯨委員会(IWC)で商業捕鯨のクジラの捕獲頭数が規制され、一部の捕鯨がおこなわれています。

B―荒廃すすむ木の国≠フ山林ときびしい林業経営
古くから紀州木の国といわれる和歌山県は、県土の77%が森林(林野率全国8位、そのほとんどが民有林=約95%)でおおわれています。森林地域は、林産物の供給だけでなく、水資源の涵養、県土保全等の重要な公益的機能をもっています。林野庁試算によると全国で森林の公益的価値は39兆円、和歌山県の森林は6577億円の公益的価値をもっているとされています。これは日本全体で6兆円以上と試算されている農業の多面的役割と比べても、森林の重要性を示しています。
 県内の人工林率は61%(全国41%)、人工林蓄積は約6600万立方bで、そのほとんどをスギとヒノキが占めています。人工林は八齢級(36〜40年生)の山林の比率が高く、伐採の適齢期にあります。人工林は1年間に約132万立方bの成長量がありますが、県内の素材生産量は20万8千立方b(98年)にすぎません。
 手入されずに放置されている森林では、蔓(つる)や枝がからみあい、やせ細った立木が密集したままになっています。林地に日光が入らないため下草も生えず、少しの雨でも表土が流出してしまうため、山地の崩壊や風水害の被害も増えています。森林の荒廃は、大きな国民的損失であり、林業を支援し、森林を守る意義にはおおきなものがあります。
 林業生産所得は、1980年の206億円を最高に、85年には97億円にまで減少。その後バブル経済時に盛り返しましたが、その後は漸減傾向にあり、98年は83億円にまで減少しています。
 県内には約2万9千戸の林家がいますが、保有林5ヘクタール以下が全体の約85%をしめ、零細な林家が圧倒的です。そのなかで森林面積の約四割は100f以上の山林を所有する林家(全体の〇・5%)が所有し、さらに500f以上所有の〇・1%(25戸)の大山林所有者が森林面積の約25%を所有するという特徴があります(90年農林業センサス)。
 林業就業者数は、1960年代には1万人以上いましたが、95年には2078人にまで減少し、60才以上が約半分を占める高齢化の状況にあります。しかし、龍神村森林組合での新規就業者の取り組みなどもあり、減少傾向に歯止めがかかってきています。
 製材工場は、1985年には403工場、4146人が働いていましたが、1998年には249工場、1797人に減少しています。扱う木材は73%(99年)を外材が占めています。
 特用林産物の生産は、白炭(備長炭)、サンショウが全国の3割以上のシェアをもち、ともに全国1 位の生産量を誇っています。

2、国民の食料確保、国土保全策を放棄した亡国≠フ自民党農政
国民の食料を確保することは、政治のもっとも大切な仕事です。21世紀は、世界的な食料難の到来が予想され、日本が食料自給率を向上させることは、国際的な責務でもあります。ところが、戦後の自民党政治は、食料自給率の低下を放置し、農業や水産業の基盤を崩壊させてきました。食料自給率が38%、穀物自給率にいたっては27%という国は、人口1億人以上をかかえる先進国として異常な姿と言わざるをえません。森林の荒廃は農業や水産業に悪影響を与えてきました。日本民族の存立問題として、農林水産業の振興をはかり、国土の保全、食料自給率の向上をすすめることが急務です。

主要先進国の穀物自給率(主食用+飼料用)の推移(単位%)
1970年 1980年 1990年 1995年 1996年 1997年
アメリカ 113 157 142 129 137 135
フランス 140 177 210 181 196 191
イギリス 59 98 116 113 125 116
ド イ ツ 71 81 114 111 117 128
ス イ ス 29 35 64 66 69 65
日  本 46 33 30 30 29 28
日本の主食用穀物自給率 74 69 67 64 63 62

@―家族農業を切りすて、大規模農家育成政策に走る
「新農業基本法」は、38%に低下した食料自給率の向上を明記せず、国民の食料確保と国内農業の振興を放棄した亡国的な政策といえます。また、食料の安定供給の確保を、国内農業生産とともに「輸入と備蓄を適切に組み合わせて」おこなうとか、「国は、安定的な輸入を確保するため必要な施策を講ずる」とまで明記し、農産物輸入の自由化というWTO体制に、日本農業を全面的に組み込もうとしています。
 さらに、農産物価格支持制度の解体を打ち出しています。これは旧農基法が、政策目標として「農業従事者が所得を増大して他産業従事者と均衡する生活を営むこと」をかかげ、農産物価格について「農業所得の確保」を明記していたのとくらべて、農業と農家の経営を危機に追いやるものです。
農業の担い手についても、家族経営を農業の基本に位置づけるのではなく、「効率的、安定的な経営体」、すなわち稲作で10〜20fという大規模農家を「育成」し、9割以上の農家を切り捨てる方向を農政の中心にすえ、企業形態の農業経営の推進もうたっています。これは株式会社による農地所有という、農地制度の改悪にもつながるものです。
和歌山県でも、「県長期計画」は、現在8147戸(95年)の中核農家を2010年には1万戸に増やすとともに、新規学卒者のほかU・Iターン者の就農もふくめ年間250人の青年農業者の確保を目標にかかげています。しかし、実態はこうした目標とはかけ離れています。
 和歌山県の農林水産費の予算は、総額に占める割合で90年の10・8%から2001年度予算では9・2%へと後退しています。この10年間にウメの立ち枯れ被害が拡大し、ミカンやカキの価格暴落がおきています。そんななかで県の農林水産費が後退しているのですから、県政の責任は重大です。しかも、農林水産費の予算の半分以上は大型農道や林道、漁港などの土木事業で占められており、県工事の負担を持たされる市町村の財政を苦しめながら、農林水産業の振興をはかる力にはなっていません。

A―農林産物、魚介類の輸入増加を野放しに
 外国からの農林水産品の輸入増加は急激に増加し、いま、繊維製品など工業製品の輸入規制とともに、緊急輸入制限が関係者の強い要望となっています。
 特に、1994年のWTO協定締結以降、野菜の輸入は、この6年間で2・5倍に急激し、2000年はトマトで前年比237%、サトイモ220%などと急増しています。輸入されている生鮮食料品の魚介類の取扱量は、関空では、1997年で3万9363d、441億75百万円であり、毎年増加しています。ミカン、カキ、野菜、そして米まで含めてすべての農産物の価格が暴落・低迷が続き、多くの農家からは「もう俺一代限りだ」とか「農業の将来の見通しはもうもてない」などの悲鳴があがっています。
 こうした事態を受けて政府はネギ、生シイタケ、イグサの3品目について、はじめてセーフガードを発動しました。県下ではいま、農産物の緊急輸入制限(セーフガード)の発動をもとめる運動が農民連や農協を中心に広がり、2000年12月の県議会はじめ27自治体の議会で、請願や意見書が採択・可決されています。
林業においては、農産物よりも早くから輸入木材の否定的影響があらわれ、木材の自給率は約20%の状況です。外国産材の輸入増加を放置することは、国内の林業の衰退、森林の荒廃をおしすすめるばかりか、輸出国の乱伐・環境破壊にも結びつくものであり、地球環境を保全する観点からも輸入規制が求められます。

3、農林水産業の立て直しは、過疎からの脱却、県民の暮らしを守る政治の中心課題
 農業を中心に地域経済の振興へがんばっている町や村の取り組み
ミカンやカキ、野菜、米を作る農家は同じ作物を同じ作り方で、ほぼ同じ時期に収穫をします。誰もが「いい農産物をたくさんつくり、いい値段で販売したい」との願いがあります。行政が農家のこうした共通する願いを援助することで、地域の経済と住民生活を発展させることは可能です。農業を産業振興策の中心に位置づけ、行政と農家が協力して、地域の発展に努力を傾けている行政があります。
 南部川村もそんな行政のひとつです。99年の同村の農家1戸当たりの生産農業所得は470万6千円(県内第2位)で、県平均の131万8千円を大きく上回っています。また、基幹的農業従事者のうち青壮年(20〜50歳未満)の占める割合が36%(全国平均は20%)、第1次産業就業者率は、56・5%(県平均11・7%)と県内第1位です。「一貫して農業立村」の旗を掲げてきた同村では、バブル期にゴルフ場などのリゾート開発話があったなか、この「農業立村」の姿勢を貫き、村にはゴルフ場はひとつもありません。
 同村の大きな特徴はウメの生産だけでなく、農業を基軸にした工業=ウメ加工・食品産業(同村には30社以上。製品出荷額が140億円)と商業が複合して発展していることです。地域での雇用の機会も増大し「みんなが働いている村」の基盤もつくっています。
 農水省は2000年2月、ウメ干やラッキョ漬けなど、原料が原形をとどめ特産地と関連が深い加工食品について、原料の原産地表示すを義務付けました。これは長年、地元農民組合をはじめウメ農家、村民、行政あげての運動の成果です。
 果樹専作地帯の那賀町では、1994年4月、町農業委員会が「有機の町づくり」を町行政に提案したことがきっかけで、95年5月に町議会が「自然を守り、都市との交流を深める町づくりをすすめ、有機栽培による安全・安心を消費者に直接供給する農業をめざす」とした"中山間地域農業モデルの町宣言"を採択し、町をあげての有機の町づくり運動をすすめることを決めました。町内の実践グループの活動が始められ、ホウレンソウ、ダイコン、コマツナ、タマネギなど有機減農薬栽培の品目は年々拡大し、栽培方針や土壌診断は普及センターが協力、堆肥は町内の畜産農家と提携し利用数量に応じて町が生産者に補助金を支給し、JAは市場を通じて地元スーパーに販売をおこない、専門農協である紀ノ川農協は、取引生協にあらかじめ登録された生産者の農産物を販売するなど、有機農業を軸に関係機関の連携もまとまってきました。古座川町では、耕地を借りて農業をおこなう人に補助金をだして、休耕地を少しでも減らす努力がおこなわれています。
 全国的にも、「田おこし事業」で知られる長野県栄村、新規就農者に3年間の助成金(30才以下の単身者には月額10万円、40才以下の既婚者に月額15万円)を出している茨城県阿見町、自治体独自に野菜の価格保障制度を運営している高知県の多くの自治体など、地域に根ざした振興策をすすめている例は数多く生まれています。

これらの例は、農業を地域経済の中心に位置づけ、その地域に適合した政策をすすめる行政や農業関係者の努力が集まれば、過疎をくい止める力になりうることを示しているのではないでしょうか。

4、住みよい豊かな農山漁村へー私たちの提案 
農業分野

(1)稲作経営の安定は、農業の基盤―ミニマムアクセス米の輸入を削減し、政府買い入れ量の拡大、下限価格の設定を
 県内の水田面積は、1970年の2万3000fから1万2700fに、ほぼ半減してしまいました。米価は6年前に比べて6千円(60`)下落し、果樹や野菜の多い県内の農家は、「米をつくっても自分の家の食いぶちだけ」とか、農家が米を買い入れることも珍しくありません。しかし、水田を維持することは米づくりにとどまらず、都市においても山間地においても遊水池や防災面で重要な値打ちをもっています。農家は「自分の子どものように」米作りを愛しています。超低価格の米価をこのまま放置することは、日本の風土と文化に深く根ざした米づくりを放棄させることになります。
 米の政府買い入れ量を国民が消費する量の3分の1―300万トンに引き上げること、自主流通米取引に下限を設定し、米価の暴落をくい止めることが必要です。価格形成センターの業務規定を見なおし、当面下限価格を3年前の米価水準(全銘柄平均で1万8504円)とします。
 減反のおしつけをやめ、国産米による備蓄を最低200万トン(毎年半分ずつ入れ替え)用意することを提案します。外国産米や余剰米は外国援助に振り向け、国内産米の需給に影響を与えないようにします。

(2)地域の特色を生かして生産力を高め、安全・安心な食料の供給を支援する政治を
 和歌山県は、中紀や南部ではミカンやウメ、野菜の生産などに適した温暖な気候に恵まれ、また紀ノ川地方や山間部ではカキやリンゴ、ブドウなども生産できる自然環境に恵まれ、また大消費地である京阪神に近い有利な点があります。しかし、個々の農家の創意、工夫、努力だけに依拠した農業は、今の自民党農政のもとでは先細りするだけです。

・ 果樹農家のみなさんへ
 グレープフルーツ、オレンジの輸入自由化、果汁輸入の拡大が、ミカンやカキ、モモなど国内果実の価格不安定、低迷のおおもとにあります。果実と果汁の輸入を制限することがどうしても必要です。また、宮崎県などで実施している「ミカン価格安定制度」の実施、別品種への改植補助事業の拡充、学校給食への県内産果実の供給を抜本的に拡充することが重要です。学校給食で育つ子どもが多い現在、小さい時からミカン等に親しむことは、大きな意義があります。
 いま、中国のウメ生産地で大規模な開発がすすんでいます。近い将来に中国ウメが和歌山県のウメの大きな脅威になると見られています。大量の安価なウメの輸入は、国内産価格の低迷を引き起こすことは必至です。すでに最近の消費不況とあいまって、価格の低迷傾向があらわれています。消費者に直接販売する方法を拡大するなど、消費者と直結した紀州のウメ産業を追究することが、現在重要なことではないでしょうか。
 県はウメ専門の研究機関の設置をすすめています。これは農家のみなさんの運動が県政を動かし、実現させたものです。農家や加工業者のみなさんの意見を採り入れた施設とすることが求められています。とくに、梅の立ち枯れの原因究明を関西電力に気兼ねすることなく本格的にすすめることが必要です。

・ 野菜・花卉栽培農家のみなさんへ
 緊急輸入制限(セーフガード)の発動はいまや待ったなしの状態です。産地の作物を近隣地域へ供給する産地・消費地の連携を充実することが、安心して食べられる野菜、顔の見える#_業として、いま大切になっているのではないでしょうか。また、卸売市場の民主化をすすめ、大スーパーの横暴、買いたたきを許さないシステムを確立することも重要です。消費者から「産地の表示がなく、どこで作られているのかわからない」という声が出されています。主要な野菜、加工品の原産国表示を拡大することが必要です。野菜の価格補填制度は、国の負担を引き上げ、対象品目をひろげることが必要です。岩手県では県単独で、県内産の野菜のほぼ全品目をカバーする価格保障制度がつくられました。和歌山県でも関係団体と協力し、安心して生産できる制度の実現をめざします。

・ 土地改良事業の抜本的な見なおしを
 土地改良事業の農家負担が大きくなっている要因のひとつは、長い工期のもとで国の農政が大きく転換し、実態と合わなくなっていることがあります。橋本市から和歌山市にいたる国営の紀ノ川用水事業は、1964年に事業費28億円の予定で紀ノ川北岸の水田、樹園地あわせて4442fに農業用水を送る計画でしたが、事業費は大きく膨らむ一方で、水田や樹園地は減少し、農家や市町村、土地改良区に大きな負担を残しています。
 南部川村から南部町にかけての樹園地に農業用水をおくる県営の土地改良事業=「南紀用水」では、年によっては10eあたりの農家負担が6万円にものぼっています。ここでは、ウルグアイランド対策での補正予算による工事費の追加が単年度事業費を大きく膨らませています。対象農地の中には、ウメの立ち枯れによってウメの生産ができなくなり、賦課金の支払いが大きな負担となっています。
 土地改良事業は、計画立案段階から農家の意見を聞くなど、その進め方などを抜本的に見直す必要があります。工事をすすめる場合にも、農家の合意と納得の上にたって、農家負担を軽減するために、国や県の負担を増やすことが必要です。

・ 市街地農業を発展させるために
 和歌山市や海南市では市街化区域内の農地に宅地並みの固定資産税・都市計画税がかけられています。米の生産者価格の4〜5倍もの固定資産税等を払わなければならない現状では、農業を続けたい農家の意欲を奪っています。生産緑地制度の導入をはかるとともに、農地の実態に見合った課税を求めていきます。

・農業の担い手対策をつよめます
 いま、県の南部地方には都市から自然と農業を求めて移住してこられるがいます。また、農業の後継者が多く育っている地域もあります。新たに農業を志す人々に最低限度の生活を保障する新規就農者援助制度(例・月15万円を3年間援助する制度)をつくり、耕作放棄地の活用や高齢者の農作業を援助する仕組みを確立するなど、多面的な方策が必要です。地域の生産力を高めるために、農業の後継者や新規の就農者を援助する制度を強めます。

(3)中山間地農地への直接支払い制度の拡充を
 ヨーロッパの中山間地域の農業は、農産物を生産することの条件が不利な地域で農業を維持するために、その格差を国で補償し、国土保全の管理人として位置づけられています。2000年度からはじめられた日本の「中山間地域等直接支払制度」の目的は「農業生産の維持を図る」ことであり、農業生産の拡大をはかることにはなっていません。しかも、その条件がきびしいものであったり、支払金額がまったく少額であるなど、改善の必要な点が数多くあります。県下でも、「5年以上も継続して農業を続けられる自信がない」「集落の誰かが離農した場合、耕作を代わってやれる人がない」など、多くの問題点に直面しているのが現状です。
 農家の実態に見合った支払い制度にするために、農家の意見を十分聞きながら適用や運用条件を改善していくことが必要です。

(4)鳥獣害対策は緊急の課題
 近年、中山間地域を中心に、農作物あるいは植林苗への鳥獣害が深刻になっています。一部の自治体では行政の対策事業や農家への補助事業、猟友会などとの協力がすすんでいますが、農家の個々の取り組みになっているのが現状です。いまこそ行政が、加害鳥獣の生態の研究もふくめ、科学的で、しかも安全かつ安価で農家が利用しやすい防除技術の開発にむけ積極的に取り組むときです。開発された技術は、普及センターなどを通じて、効果的に農家に普及できるようすべきです。
 また、これまで、農家が自ら工夫をこらしながら実施してきた様々な防除施設については市町村が単独で補助を出している事例が多く、、県が2001年度から補助事業を始めていますが、本格的なとり組みが求められます。。

水産業分野
(1)水産業の振興へ漁場の保全と後継者対策、輸入規制を
 水産業を国民の食料供給のための産業と位置づけ、自然・環境との共存、伝統文化や地域の特徴ある食文化の伝承、集落の維持などを重視しながら、漁業者の生活と営業を政策的に保障することが必要です。
 国内水産業に打撃をあたえる無秩序な輸入急増にたいし、セーフガードを機敏に発動するなど、実効ある輸入規制措置が必要です。
 漁業後継者支援制度を創設し、新たな就業や技術の習得への支援策を強めます。また、新規就漁者に援助制度(例、月15万円、3年間援助)の創設を求めます。
 水産振興には各地域で築いてきた漁法や資源管理などの努力を最大限尊重し、その自主性と関係者の参加を基本とする地方自治体の関わり方が重要です。また、漁業が適切に営まれ、漁村に人が住みつづけることは、海岸の維持・管理や海難の救援、集落の維持など、公益的な機能を発揮します。そのためにも、中山間地域の農地の荒廃を防ぐことを目的とした直接払い制度と同じように条件不利地域対策を検討することが必要です。

(2)海洋資源は人類共通の財産=資源管理と漁業経営安定を
 いままでの日本の漁業管理は、主に漁船数や漁具の規模、漁期の制限でした。いずれの国も平等に海洋資源を利用する二百カイリ時代に入り、水産資源の利用にはTAC(タック=総漁獲可能量・許容漁獲量)制度の導入を義務づけられます。これは、それぞれの国の経済水域内の管理を沿岸国に義務づけるもので、資源的にも環境面でも、その国の自己責任が求められ、生物資源が再生産されるしくみの中で、魚種ごとに、毎年どれぐらいの量を漁獲してもよいかを算出し、その範囲内で漁業を行なうというものです。
 漁業の生産調整は、生産"過剰"による価格低落を防ぐためではなく、資源管理が基本であり、国などが休漁、漁獲量削減などの負担を漁業者に押し付けるのではなく、長期的な漁業従事者の確保を展望して、責任ある補償にすべきです。
 最近、県内の漁協信用(金融)事業統合が進められ、そのなかで県と市、町が債務保証するケースがあります。経営を悪化させた原因と責任を明らかにして情報公開をすすめ、住民合意を前提とした組合員も納得できる健全化計画を明らかにすべきです。そして、漁協が漁港や浜の特徴を生かせる規模と運営をおこない、漁場と資源の管理、漁村地域の維持などに積極的な役割をはたすことが重要です。

(3)生産コストに見合う漁価の実現を
 安心して漁業に従事し、毎日の努力が報いられるためには生産コストにみあう魚価の実現と安定が求められます。大手スーパーなどの横暴を許さない卸売市場の民主的運営が必要です。経営安定対策を強化するため、国や自治体に低利融資、安価な資材・燃油の供給、作業の安全性の確保と保険制度を充実させます。
 漁船や魚網などの石油製品の処理対策は、製造者責任を中心にして、適切な処理・リ サイクルができるよう国や自治体、関係者の協力ですすめます。 沿岸で使用する5dクラスの船を新しくつくるには、機器類を含めて1500万円から2000万円かかります。漁船のレンタル制度を求めていきます。
増殖事業や栽培漁業をさらに発展させるため、漁協や試験研究機関による稚苗の放流、育成などの試験・研究、資源保護を、経済効率の視点からだけで見るのではなく、漁業者、研究者の自主性を尊重しながら、国や自治体が援助をつよめることが必要です。漁港整備費の地元負担や漁船購入費の金利負担を軽減することも重要です。

(4)地域の実状にあった水産業振興策を
  高齢者の漁業者の最高の生きがいは「出漁し、真っ黒に日焼けし、生産をあげ、浜で車座になって語り合うこと」といわれます。国の予算づけのない漁港や船揚場でも多くの高齢者が利用しており、高齢者が漁業をつづけるためには、進入路の確保や船揚場の滑り材の設置、斜路勾配の緩和、及び段差の解消、防風雨対策、トイレ・休憩所の設置など、高齢者や女性にやさしい漁港づくりが求められており、今後の漁港整備のあり方が問われています。公共事業も現場の生産と生活条件の改善に役立つものを優先すべきです。同時に、湾、浜、地先など、地域の条件に見あった資源の涵養、漁業経営形態を尊重し、それにあった発展方向や地方の食文化、食生活を生かした都市との交流など、地域の主体的なとりくみにたいする援助をつよめます。

林業分野
(1)国内産材の積極的活用をはかる
 外国産材の輸入規制をおこなうとともに、国産材の利用を促進することが必要です。行政がただちにできることは、学校や福祉施設など公共施設で国産材の利用を拡大することです。また、国産材を住宅用の構造材として積極的に使用していくためには、国産材のよさを積極的にアピールするとともに、品質の安定、乾燥を重視する必要があり、乾燥材を生産できる施設整備に取り組む必要があります。

(2)森林保全のためにも間伐の推進と間伐材の有効利用を
 近年、木材価格が低迷するなかで、多くの森林は間伐されずに放置され、「山の荒れ」の大きな原因になっています。現在、国も「緊急間伐5カ年対策」を実施していますが、県としても積極的な推進を図っていくべきです。また、山村の雇用対策として「緊急地域雇用特別交付金」が利用されていますが、森林保全、間伐の推進を図るためにも、「特別交付金」制度の終了後も事業を継続させることが必要です。さらに、「間伐が金になる」よう間伐材の有効利用をすすめます。例として公共土木事業への利用が注目されており、その分野への利用を拡大していきます。一定の補助をだしながら間伐材を有効利用している市町村に対し、国や県が援助していくことも重要です。

(3)バイオマスエネルギーの活用など環境保全型林業への取り組み
 バイオマスとは、一般的には利用可能な生物資源を意味するものとして使用されている言葉で、樹木や家畜糞尿、生ゴミなど多様な形態がありますが、日本では木質バイオマスが大量の潜在力として期待されています。バイオマスのエネルギー利用で最もすすんでいるとされるスウェーデンでは、すでに一次エネルギー供給の19%を占めているといわれています。樹皮や製材くず、オガクズなどを燃料として利用するなど各地で研究が始まっていますが、和歌山県としても率先した取り組みが求められます。
 また、人工林率が高すぎることから、山の保水機能の不足による水害の心配、あるいは動物のエサとなる木の実が不足し、それが農作物への鳥獣害を招く一要因ともなっていることなど、弊害がでています。広葉樹林を計画的に適切に配置していくことが求められています。

(4)担い手対策の強化
 60歳以上の担い手が半数をしめるなど、林業後継者の不足は深刻です。林業の担い手を「国土の管理人」として位置づけ、農業分野の直接所得保障などを参考にした制度を創設することを求めます。また、IターンやUターンの新規就業者への援助を強めます。

5、不要不急の公共事業費を削減し、社会保障や価格保障、後継者育成の財源に
 農山漁村は高齢化がすすみ介護や医療の必要な地域でありながら、多くの地域がもっとも低い水準におかれています。政府は介護保険制度を実施しながら、国の負担を減らすことばかりに熱心で、「保険あって介護なし」の深刻な事態が生まれています。また、2001年1月からは、介護保険の利用料1割負担を口実に、高齢者医療に1割の定率負担をおしつけ、同時に高額療養制度の改悪を強行しました。介護保険の利用料については、県内でも低所得者や障害者対策として市町村独自に軽減策をとるところもありますが、国の負担を増やすことで、低所得者の負担を軽くすることが必要です。
 国民健康保険や年金制度も、国庫負担の削減が国民の負担を重くしています。農林年金制度の改悪も、農家を苦しめています。国の予算の使い道を公共事業中心から社会保障中心に切り換えれば、安心できる医療、福祉、年金制度に変えることができます。高齢化社会を理由に消費税を引き上げることは絶対にゆるされません。
国や和歌山県の農林水産業予算の6割から7割を土木事業がしめています。その中には農家や林家、漁民が必要とする事業も少なくありません。しかし、数十億円から数百億円にものぼる大規模な土地改良事業や大型農林道の建設が優先され、農家などに大きな負担をしいています。不要不急の公共事業費を削減し、農林水産業予算の中心を農家や漁民が安心して働くことのできる価格保障制度や所得保障、後継者対策などにきり変えることが必要です。農産物の価格保障・所得保障の予算は、87年から10年間に、EU(欧州連合)は3・65倍、アメリカは2・79倍にも伸びていますが、日本は逆に39%に落ち込んでいます。



 日本共産党は2000年11月に開催した第22回大会で、「農林水産業を永続的に維持・発展させることは、食料の安定確保・農山村の維持とともに、国土・環境の保全や多様な生態系の維持など、国民生活に欠かせない多面的な機能を発揮させるためにも重視しなければならない」と呼びかけました。
 豊かな自然と温暖な気候、豊富な森林資源に恵まれた和歌山県において、農林水産業を大いに発展させることは可能であり、実現させなければならない課題です。日本共産党は、みなさんと力をあわせて奮闘する決意です。


発行   日本共産党和歌山県委員会
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