特攻死の無念 戦争告発  「改憲に反対」有権者過半数の町  和歌山県美浜町
        
                陸上自衛隊が軍事訓練を狙う、煙樹ヶ浜=和歌山県美浜町                                    2014526
 和歌山県美浜町では、憲法改悪反対署名が有権者の半数を超えています。町民の自慢は、日本の白砂青松百選に選ばれた煙樹ヶ浜です。陸上自衛隊や関西電力の横暴とたたかってきた歴史もあります。町の人たちはこう語ります。「美しい自然と平和を丸ごと子どもたちに残したい」。


 全長6キロに及ぶ浜と松の美林。「老後はこの自然のなかでゆっくりしたいと移ってきたのに、以前より忙しくなりました」。こう話すのは73歳の男性です。14年前、高台の家から海が見渡せる絶好のロケーションに兵庫県尼崎市から引っ越してきました。ところが、町に駐屯する陸上自衛隊が水陸両用の地雷敷設車を配備、浜を軍事訓練場にしようとしています。
 「自衛隊はこの頃、戦闘服で歩き回り、町なかで武器を携行しないという約束をほごにしています。やめさせるたたかいが続きます」。

 町内を3巡して
 この町に「九条の会美浜」が誕生したのは2005年9月のことです。元教育長や元校長、区長、農業委員、婦人会会長、診療所所長、住職と多彩な人たちが呼びかけました。
 翌06年8月から署名を本格化。日曜行動など町内を3巡し、13年8月に3,330人の署名を集めて有権者の過半数に到達しました。
 弾みがついたのは、「戦争を語る会」「戦争展」など地域からの戦争の告発でした。
 会呼びかけ人の小松さん83歳は、爆弾を積んで米艦を攻撃する特別攻撃隊だった兄の生涯を語っています。小中学校や高校などに呼ばれ、3,200人以上に話をしてきました。
 小松さんのお兄さんは、和歌山師範学校(現和歌山大学)を卒業して教師になりますが、1944年、特攻隊に志願。45年5月、米戦艦に体当たりし、戦死します。22歳の若さでした。

 やっと私の子に
 「手柄を立ててくれた」と喜んだ母は、77年の三十三回忌の墓参で線香に火をつけて手を合わせた途端、声を振り絞って兄の名をよび泣き崩れました。
 「泣いたことがなかったのにどうして」と小松さん。母は「日本の国のため天皇陛下にささげた子やった。三十三回忌でやっと私の子になった」といいました。
 小松さんは、今年5月3日の憲法記念日に兄が出撃した鹿児島県知覧(現南九州市)を訪れ、特攻隊員が出撃前に起居し遺書を書き残した三角兵舎で「何を思って最後の夜を過ごしたのか」と思いをはせ、涙ぐみました。
 「軍国青年だった兄は親しい女性に『俺だって生きていたい』とつぶやいたそうです。安倍首相は『国民の命を守る』というが、集団的自衛権行使ということは、日本の若者に血を流せと強要すること。人の命を使い捨てにする悲惨な戦争をくり返す動きは、生ある限り告発したい」――。

 「イエスマン」にならぬ
 「国民学校で手りゅう弾を投げる訓練をさせられました」と話す和歌山県美浜町に住む谷口さん(80歳)。元中学校長で、「九条の会美浜」の呼びかけ人代表です。元社会科教師で民衆史を研究しています。
 戦時中、国が松根油(しょうこんゆ)を航空燃料に利用しようと松を傷つけ、多くの木が枯死。戦後、農民らが運動を起こし、懸命に美林を保護・育成してきたといいます。
 60年には自衛隊誘致で松林を伐採する計画が浮上。農民らはロープで体を松にくくりつけ、座り込み、反対運動をくり広げました。
 「九条の会美浜」の全戸訪問も、47年前、隣町の日高町で持ち上がった関電原発建設計画反対のたたかいに学んだものでした。
 地域ごとに地図と名簿をつくり、一軒一軒訪ねて対話、不在だった家を再度訪問し、憲法改悪反対署名を積み上げてきました。
 訪問は、草の根で活動するさまざまな人との出会いの場でした。
 「子どもたちに人殺しをさせたくないというのが、九条の会に参加したきっかけでした」。68歳の女性は語ります。夫の退職を機に、千葉から移住。親子劇場などの経験を生かし、3年前から子どもたちに遊びの楽しさを伝えてきました。手打ちうどんやギョーザづくり、餅つき、山登り、浜で拾った石に絵を描く…。子どもたちの歓声が地域に上がりました。
 子どもの減少で廃校になった小学校跡を借りての図書館づくりに参加。本棚製作を引き受ける人など多くのボランティアの手で設立にこぎつけました。
 多くの人に「九条の会」タペストリーを作ろうと声をかけています。「子どもたちの経験につながるなら、なんでもやってみたい。国や上の人の命令に『イエスマン』にならないよう、ものがいえ、のびのび健やかに育ってほしいですね」。

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 陸自和歌山駐屯地は今年5月31日、創立52年と称して、浜で観閲式や車両パレード、地雷敷設車体験乗船を計画。町民を巻き込んだ軍事訓練を狙っています。
 「美浜の自然を守る会」や町民らが厳しく抗議しています。

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