自由行動
三越に入ると、店の人から説明があってカードと袋を配られた。他の人たちはそれぞれ店の中へ散って行ったが、1組の若夫婦が添乗員さんに「今から地下鉄に乗ってブランド街へ行ってきたいと思う」と言って出ていった。それを見て私も添乗員さんに「美術館へ行きたいので夕飯をキャンセルします」と言って出ていった。スペイン広場の方に少し歩いて、タクシーを拾い、「レイナ・ソフィア・アルテ」と言ったら理解してくれたようで行ってくれた。4ユーロかからなかったがチップとして4ユーロ渡した。
入口でチケットを買おうとしたら代金はいらない、そのままチケットだけ持っていけという。土曜の午後2時以後と日曜は無料だったのだ。外国の美術館の入場料は総じて安いのに、休日が無料とは、なんと開けてるものだ。それに作品も日本みたいにガラスでおおわれていなくて筆のあとや質感をじっくり見ることができる。
「るるぶ」に書いてあるとおり、ガラス張りのエレベータで2階に行った。それでるるぶに載っている絵をチェックしていった。ピカソ、ミロ、ダリなど近代絵画を見た。ピカソのゲルニカは大きい作品だった。黒、灰色、白だけの色しか使っていないが、圧倒的な迫力があった。政治的な意味合いで永らく海外にあり、フランコが亡くなってしばらくしてからスペインに戻ることができたといういわくつきの作品だ。せっかくスペインに来たのだから見たかった。それが運良く見られてよかった。ミロの絵は点々だけ描いたものや一筆書きみたいなものもあった。でもスキッとした感じがよかった。ダリの作品は色彩が美しかった。構図も面白かった。4階は現代絵画でそこもチェックしていった。どうしても1枚だけ見つからなかった。貸し出されているのだろうか。
閉館10分前の8時50分まで見ていた。そこで玄関付近のショップを探しに行った。だが、扉は閉まっていた。仕方なく出口を出たところで、同じツアーの熊本から来た2人と出会った。ショップはどうやら8時で閉まったらしく、彼女らも本を買えなかったらしい。さすが、スペイン!だと憤慨した。そして明日の朝食、バゲージダウンの時間を教えてもらい、夕飯を一緒に食べに行った。私がパエリアを食べたいと言うと、彼女達もそうしてくれると言った。美術館の近くをうろうろして最初に入った店にはパエリアはなかった。出せるのは5時までらしい。それでいったん席に座っていたにもかかわらず、あやまって店を出た。旅の恥はかき捨てである。隣の店の前にパエリアの看板が出ていたので入ることにした。今度は席に座る前にパエリアはあるかと聞いたらOKということで安心して座った。その店は庶民が気軽に入れる店みたいで繁盛していた。店員は全員男性。シーフードパエリアを注文したが、多分それは2人前で来るだろうとのことで、片言英語だが3人で2人前がほしいと説明した。といっても私は何もせず熊本の2人が説明した。それとオレンジジュースをそれぞれ1杯ずつ。わかったのかわからないのか不安だったがボーイは厨房に注文を出していた。オレンジジュースはすぐ来たのだがパエリアはなかなか来なかった。待っている間、彼女達に午後の様子を聞いた。彼女達はトレドへ行かず、午後自由行動をとった。まず地下鉄でブランド街へ行ったのだが、シエスタ(昼寝)で店は閉まっていて、またシビラというお目当ての店などは、12日から25日までバケイションで休みの張り紙があったらしく買い物はできなかった。それで、北の方にあるレアルマドリッドの本拠地まで行った。あのフランスのジダンを高額で引き抜いたチーム。彼女たちはサッカーファンでこの前日本で行われたワールドカップにも葉書を書きまくり2回行ったそうだ。競技場は試合がないにもかかわらず家族連れで賑わっていたという。そこでサッカーグッズをたくさん買っていったんホテルまで持って帰ったそうだ。
それから昨晩の夕食について話し合った。私はツアーについていた食事だったのでアーティチョークの説明をした。そして全体的にそんなに美味しいものでもなかったと言った。彼女たちはフリーの人たち5人でホテルの近くのレストランで食べたのだが、その美味しさについて得々と説明してくれた。スープ、シーフードパエリア、サラダ・・・ツアーの食事とは比べてとてもよかったらしい。それで1人4000円くらいになって所持金がなかったので同行の中年の夫婦から借りたと話していた。何故所持金がなかったかというと、マドリッドは近年治安が悪くなっていて添乗員さんから食事に出る人は食事代だけ持っていくようにしてくださいと言われていたからだった。泊まっているホテルのすぐ近くでも2日前にアメリカ人がスリに会い、パトカーが来たと現地ガイドが言っていた。マドリッドやバルセロナでは首絞め強盗が横行し、失神したスキに金品を持っていくという手口だそうだ。ツアーの最初に添乗員さんから説明とともに外務省が出している情報を書いた紙を渡された。それで、私は疲れがあったのもあるが、夜の自由時間に遠くへ出歩かなかった。男の人達(2人連れの若者と60代の1人)は毎日のようにタクシーで市の中心地まで出ていたようである。2人組は最初の夜からサグラダ・ファミリアまで歩いていったり、マドリッドでもハードロックカフェへ行ったと言っていた。60代の方は1人でタクシーに乗ってクラブへ行ったり日本食を食べに行ったと言っていた。元気あるなぁと思った。
ようやくパエリアが来たと思ったら、パエリアが入ったフライパン2つだった。注文より多くきたと思い、なんとか説明したがどうも埒があかなかった。そしてスプーンと小皿3枚を持ってきてくれた。とにかくよそい分けて食べたら美味しかった。バレンシアで食べたものより美味しかった。「やっぱりパエリアはシーフードよ。」とバレンシアで食べたウサギ肉のものと比べて3人とも納得した。
その店はとても混んでいた。ボーイ達は忙しそうだった。欧米の店では勘定はテーブルで払う。隣のテーブルの2人が勘定の紙を要求し、ボーイがプラスチックの皿に紙を置いた。しかし、ボーイが向こうへ行ったあと、その2人は払わずに出て行ったらしい。らしいと言うのは、私の後ろのテーブルだったので私は直接見ていないからだ。私と同席の2人がそう言ったのだ。それで振り返ってみると、勘定の紙がそのまま残されていた。もちろん代金も置いていなかった。食い逃げ!確かにこんなに忙しそうだったら店の人は気づかないだろう。でも日本ならいくら忙しそうにしていても食い逃げなんてほとんどないと思う。そこが外国だなと思った。
私たちは勘定を要求し、紙を見たら、パエリア7.??ユーロとジュース2.??ユーロで計14.??ユーロだった。つまりパエリアは私たちが注文したとおりだったのだ。それで1人5ユーロずつ払うようにして残りはチップにした。600円くらいで食べられたということだ。満足した。10時を過ぎていた。そこからタクシーでホテルに帰った。私は初めからタクシー代を払おうと思っていたので前に乗った。というのは、パエリアを食べたいと言った私につきあってくれたようで悪かったと思っていたからである。もしかしたら、彼女たちは別のものを食べたかったのかもしれないと思っていた。タクシーは5ユーロちょっとだった。私は5ユーロを出し、残りを探したが、あいにく細かいものがなかった。それで残りを払ってもらい降りた。ちなみにスペインのタクシーは自動ドアではない。彼女たちは精算しようとしたが、私は断った。納得してくれないので、食事のメニューのことを言ったら、なんでもよかったと言ってくれたので安心した。そして彼女たちも「好意に甘えます」と言ってくれた。
部屋に戻って添乗員さんの部屋に電話して、戻って来たということと、明日の予定時間はツアーの人に聞いたということを報告した。三越でツアーと離れ、美術館へ行ってよかったなぁと思った。ゲルニカもツアーに入っていたトレドも見られたし、シーフードパエリアも食べられたし、とても充実した1日で嬉しかった。なんだか毎日暑くて疲れるし、見るものもペルーやエジプトに比べ、迫力に欠けるなぁと思っていたが、最後の日になって満足感を得ることができた。