8月10日(火) ウィーン

王宮9時開場に合うようにペンションを出た。しかし,入口がわからず30分も探し回った。運転手らしき人に訊いてようやくわかった。予定ぎっしりなのに時間のロスだ。初めに銀器コレクションを見た。そして皇帝の部屋。オーディオガイドに沿って見て行った。皇妃エリーザベトの運動の部屋が印象に残った。しかし,最後の方はとばした。それでも11時半までいた。銀器コレクション見物に時間をかけすぎた。

王宮前にあるデーメルに行った。ペンションで無料チケットをもらっていた。オシャレに外で食べることにした。日本,特に地方に住んでいる私にはこういう経験が少ない。席はほとんど埋まっていたが,ちょうど日本人の25歳くらいの女の子が一人座っている前が空いていた。座っていいか了解を得た。彼女にもまだ注文がきていなかった。絵はがきを書いていた。黒い帽子にワンピースとオシャレだった。お互い一人旅なのに,どうも話しかけにくい雰囲気があった。彼女がとても気取っているように私には思えた。私はメランジェとザッハトルテを注文した。彼女の方に注文したものがきたが,何か足りないらしく,彼女は拳で円を描いていた。すると,ウェートレスは了解したらしく,すぐにケーキを持って行き,次に持ってきたときには生クリームが追加されたいた。私の方にも注文したものがきた。ケーキはどちらかというとサクサクした感じだ。それほど甘くない。16年前にパリのマキシムで食べたチョコレートケーキは頭が痛くなるくらい甘かったので,本場のものは甘いと思いこんでいたがそうでもなかった。前の彼女はケーキを食べ終わると,セーラムライトを吸い始めた。屋外とはいえ,煙草の煙が嫌だった。私は食べ終えると早々に退散した。時間的にいって,これが昼食がわりだった。

王宮から南へ歩き,トラムDに乗ってベルベデーレ宮殿へ行った。停留所から50mほど歩くと上宮があった。ここも絵画を展示しているのだが,私は興味がなかったのでそこは素通りした。庭園を通って南の下宮へ歩いて行った。ここにはクリムト,シーレ,ムンク,ゴッホ,ルノアール,モネといった蒼々たる近代絵画が展示されている。特にクリムト,シーレの有名な作品が多い。クリムトは金色,シーレは柔らかい色遣いが印象に残った。2階のCの部屋にこれら近代絵画が展示されているので時間がない人はここだけでもよいと思う。上の階は古い時代のものだった。画集を買った。2時,トラム71に乗った。

お腹がすいたので楽友協会ホール横のマクドナルドへ,再び行った。多分日本にはないメニュー「ロイヤル」と「コーラ大」を注文した。それで4.4ユーロ。何故,大を頼んだのか自分でもよくわからない。あまりにもお腹が空いていたからかもしれない。ロイヤルは野菜が多くてよかった。コーラ大はやはり多過ぎて,半分しか飲めなかった。私の横のテーブルに片腕の父と12,3歳の息子が座っていた。父親は食べている間も,落ち着きなく辺りを見ていた。私は,この人は何故腕を失うことになったのだろうかとか,どんな生活をしているのだろうかとか,息子は父親のことをどう思っているのだろうかとか考えていた。

午後3時のオペラ座見学ツアーに参加した。下調べでは,日本語ツアーは午後3時1回のみとなっていたが,午後1時にもあった。ブダペストと比べて客席が丸みを帯びていた。舞台裏も見られてよかった。有名音楽家の肖像がたくさんあった。エリーザベトが見ていた場所は,オペラを見るには良い場所ではないなぁと思った。真横からは見にくいと思う。私は旅行前に宮本輝の紀行文「異国の窓から」を読んでいた。その中にオペラ座の天井桟敷の人々について書かれた部分があった。宮本氏はオペラそのものより天井桟敷に興味を持っていたようだった。それで私は映画「天井桟敷の人々」のビデオも見ておいた。ツアーでは天井桟敷の席の一部は下から見えたが,近くに行くことができなかった。ツアーが終わったあと,階段を上がってみたが,ドアを締め切っていて無理だった。

トラムDでベートーベンgangまで行った。ベートーベンの散歩道は静かだった。小さな川に沿って歩いていった。木立の陰になっていて涼しかった。家が並んでいたが,外に出ている人もなく,観光客もほとんどいなかった。のんびり一人歩いていると,日本から遠く離れた地であることを忘れてしまいそうな感じがした。ハイリゲンシュタッットのベートベン遺書の家に行った。入れるのは午後4時半までであることはわかっていた。その時間に間に合わないことを承知で行ったのだった。窓ガラスから中をのぞいて見ると,ベートベン関連の本などが床に散らばっていた。

ベートーベンが住んだ家を利用したホイリゲ酒場マイヤーを目指した。午後5時,まだ日は高い。扉の上に掲げられた松の枝がホイリゲの目印らしい。日本人の大学生らしき3人組の他は,歩いている観光客を見なかった。酒を飲むにはまだ早いのだろうかと思いながら歩いていった。マイヤーはなかなか見つけられなかった。ガイドブックの地図に示された場所を行ったり来たりしてみたがホイリゲはなかった。番地を頼りに行くとそこにホイリゲがあった。中に入ると,写真と同じ店だった。客が何組かいた。白ワインを注文し,隣の棟でチーズとサラダを買ってテーブルまで持って行った。チーズ,オリーブはとても塩辛かった。ワインをたくさん飲ませるためだろうか。トマトや葉物など辛くないものをつまみにしてワインを飲んだ。ワイングラスではなく,ジュースのためのような普通のコップで1杯飲んだだけだったが,酔ってしまった。台湾人の団体が店を素通りして行った。ガイドがベートーベン何とかと言っていた。団体の中の誰かがジャパン・・・と言っているのが聞こえた。私のことを言っているみたいだ。2杯目はどうかとウェートレスが言った。しかしこれ以上飲むと帰れなくだるだろうから止めておいた。しばらくして代金を払おうと,遠くのウェートレスに向かって手を挙げた。2人居たが,年配の方が若い方に向かって「あなた,行きなさいよ」というような仕草をしていた。若い方は仕方ないという顔でやってきた。日本人を相手にしたくないのだろうか。

帰りはハイリゲンシュタット駅までトラム38Aで行き,そこで地下鉄U4に乗り換えた。午後6時40分だった。空いている席に座ると,前に座っている男の人の様子が少し変だった。なんだか酔っているようだ。席を変わろうかなと一瞬思ったが,結局変わらなかった。あとから私の隣に座った人達は,彼が酔っているのに気づいたのかすぐに変わっていった。目の前の人は,私の顔をうつろな目で見ていたが,何も言ってこなかった。私はその間緊張していた。

プラター遊園地へ行った。ここには「第3の男」に出てくる大観覧車がある。私はこの映画を見ていなかったので,旅行前にレンタルして見ておいた。その大観覧車は映画と同じ形をしていた。箱が直方体で大きかった。係の人が一つの箱に10人位ずつ乗せていた。床や壁は木が張られていて落書きで埋め尽くされていた。日本語の落書きもあった。夕日と町が美しく見えた。

売店でシシー(エリーザベト皇后)の絵はがきとマグネットを買った。シシーに,はまりかけていた。シシーは生存中,市民から皇帝ほど愛されていなかった。死後,映画が作られたことなどからシシー伝説が生まれたという。シシーの考え方や性格はどうであれ,美貌とスタイルは素晴らしいと思う。遊園地は家族連れが多くかった。メリーゴーランドの代わりに本物の馬に子どもを乗せてグルグル回っていた。可愛かったので写真を撮ってみた。シシーも上手に馬に乗ったらしいし,美術館ではウィーンの貴族の女性が馬に乗っている絵を見た。ここでは以前から女性が馬に乗ることに関しては自由だったみたいだ。夜の遊園地は,電飾が綺麗だった。

地下鉄の駅に向かったつもりだったが,方向を間違えてしまった。全く見覚えのない通りに行ってしまった。自転車をついている年配の女性に片言で訊いてみたがよくわからなかった。とにかく遊園地の方へ戻るしかなかった。往復で2kmくらい歩いたろう。そして地図をにらみ,よく考えると地下鉄の駅に行けた。歩き疲れてぐったりしていた。