「あの、榎本さん中々だとおもわねーか?近藤さん。」歳三は船上で言った。
「そうだな…歳、それより【江戸】に付いたら如何するつもりだ?」
「まず【上様】にあわねーとな!」「【上様に】」「そーよ。【鳥羽伏見での戦】で何故逃げ帰ったのか
問い詰めるのよ!」その時である、部屋をノックする音に気づいた二人はドアに目を遣る
総司が立っていた。「二人だけではズルイですよ…ごほごほ」「病人は部屋で寝ていろ!おいら、おめーの姉さんの
おみつさんに顔出しできねぇーじゃねーか!」そして又ノックが、榎本だった。
「お3人さんに、食べて頂こうっと思いまして【ワイン】と【カステラ】です」そしてにこやかな笑みを浮かべ部屋を出て行った。
「私は【カステラ】を頂こうかな!」と久々に笑みを浮かべる総司。「私も下戸の方だから【カステーラ】を」と近藤。
「だらしがねーな、おめえさん達」っと笑う歳三。「おいら【ワイン】を飲むぜぇ。なんか【今まで斬った浪士の血の色】みていだな」っと
笑う歳三。「歳、一つおまえに聞きたい事がある、おまえにとっての【誠】とはなんだ?」「おいらにとっての【誠】か…戦って戦って
死ぬまぜよ!」「ふふふ土方さんらしいや」「うるせーぶん殴るぞ!」「病人相手にですか?」っと笑う総司。
「私にとっての【誠】は、自分に恥じなく潔く死ぬまでだ」「あんたらしいぜぇ。近藤さん…おいら喧嘩だけしかねーからよ」と
にこりと微笑む歳三。船は【江戸】に向かっている。

一方江戸城では、逃げ帰ってきた将軍・慶喜を待っていたのは小柄な男であった。
「上様には、何時までもお元気でお帰りなさりまして…」軍艦奉行・勝海舟だった。
「勝、それは余にとっての嫌味か?」「嫌味じゃありませがね【鳥羽伏見の戦い】で何故、皆を置いて帰ってきなすったんぜぇっと
思いましてね」「余はあの時あの方法しかなかったのじゃ」「江戸に帰って来ますったら【お江戸は焼野原】になりますねぇ」
「如何すけば良い勝?」「兎に角上様には【上野寛永寺】に蟄居して頂きますぜぇ」「分かった、そちに任す」
将軍慶喜は、上野寛永寺に蟄居する事になった。
「流石、勝先生…素晴らしい采配の仕方ですな」っと感心する男【山岡鉄舟】だった。
「だか【新選組】の奴らが帰って来ると聞きましてね・…」「近藤達ですか?」「奴ら【お江戸】にいてもらっちゃ困りますからね」
「近藤達を如何するのですか」「まぁ、鉄舟さんあたしに任せて下さいな」っとニヤリっと笑う勝であった。

江戸に付いた、近藤達「新選組」は、「懐かしいぜぇ!流石【お江戸】だ」「本当に懐かしい」っと皆口々に言った。
江戸の屯所に付いた近藤達に、江戸城に来るようにとの使者が「おいらも行くぜぇ!近藤さん」と歳三が言った。
「勝の野郎何考えているかわからねーからよ」「でも、勝先生は私に来るようにっと」「分かった、でも【勝】の口車には
乗るんじゃねーぞ、近藤さん」黙って歳三の肩を叩いて【江戸城】に向かう近藤であった。

江戸城では、勝海舟と山岡鉄舟と待っていた「京の働きご苦労さんだったな。近藤さん」勝が微笑む。
「それでな、お前さん達【新選組】を甲府の守りに付いて貰いたいのだが・・・駄目かね?近藤さん」
「上様が仰るとうりに致しまする」と平伏すると「上様はいねのーだよ。近藤さん。上様は【上野寛永寺】に蟄居されて
しまってな。おいら達が止めるのも止めないで…」「そうですか…」「処で【新撰組】は名前を変えて貰えてーだが」
「勝先生!」山岡が声を出す。「【甲陽鎮撫隊】っと改めてもらいてーんだが。そして、甲府が今あぶねーのさ、近藤さん
【甲陽鎮撫隊】で守り抜いて頂きてーんだが、無理かね?近藤さん…」と悲しそうに詰め寄る【勝海舟】
「分かりました。勝先生のお命じに致しましょう」と近藤は言って、江戸城を後にした。
「勝先生が、此処まで近藤を頼りにしていましたとは…」っと山岡。
「おめーさんも馬鹿だな【甲陽鎮部隊】とは笑わせるぜぇ。」と笑う勝。「でもあの目は、見抜いていた目だったな。鉄舟さんよ…
悲しそうな目だったぜぇ」と勝は呟いた。

新選組屯所に戻った近藤は、歳三の姿に吃驚した。「洋装ではないか!そして、髻まで切り落として」
「おいら、今回の【鳥羽伏見の戦い】で思ったのよ。此れからは刀の時代ではないとな」ズボンにマント姿の歳三が言う。
「それで、勝の野郎はどうだった?」「我々は、甲府を任される事にした、歳」「甲府!?江戸を離れるのかよ…」
「皆聞いてくれ、新選組は【甲陽鎮撫隊】と名を改める事にした!」「甲陽鎮撫隊…ですか」いささか気に入らない
永倉達だった。

久しぶりに試衛館を訪れた、近藤達。皆、嬉しそうに迎えてくれた。「やったね!かっちゃん」と周りが
楽しそうに喜ぶ、「近藤さんは【大久保剛(大和)】土方さんは【内藤隼人】一国一城の大名だ」
「凄いよ、故郷に錦を飾ったね」っと嬉しそうな人々。「祝宴などしている事よりも、一刻でも甲府に行くべきだと
思うのだが…」永倉は益々不信感を抱いていった。

「総司、お前は甲府には連れていかねーからな」「どうしてですか!!」「病人が居たら迷惑なのさ」
「総司、歳の言うとおりにしてくれ」っと近藤も頭を下げる。
「じゃ!治ったら甲府に付いて行きますからね」と子供のような笑みを浮かべる総司。
「土方さんだけでは、心配ですから」っと少年のように悪戯っぽく笑う総司に「おめーぶん殴られてーのか!」と
歳三。此れが、近藤・歳三が最後に見る総司の笑顔だった。


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