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2006年02月12日【 3.月刊『お前だえよ!』 】

青春の時を刻んだムーンスタジオ

小学生の頃、よく友達と近所のスーパーの横に積んであるダンボールを集めてきて基地を作ったりしていた。出来上がった基地の中で特別な事をするわけでもなく、本を読んだりお菓子を食べたり家の部屋でも出来るような事をわざわざそこでしていた。

今思えば、大人の目を避け子供だけの空間というだけで心地よかった、正しくワンダーランドであった。
それから月日が流れて高校2年生の頃、クラスのリーダー的存在である岩本という奴と出会った。決して優等生と呼べない彼は、何かにつけマイペースで平凡を嫌い常に大人のたちの目線での言動や行動を繰り返し腰のすわった高校生であった。そんな一風変わった彼に周りは、興味を持ち男女問わず一目置く存在へとなった。僕も例外ではなかった。
それから知らん間に岩本の子分的存在になった僕は、以来彼の世界へと飛び込む事となる。
彼は、中学時代からの友人らでバンドを組んでいて、贅沢にも専用の練習場があるという。
連れられるがまま、訪れた所は市内国道沿いの某所。広い空き地にポツリと立っているトタン張りのプレハブだった。不法占拠と疑っていたらちゃんと家賃を払っていてそうでもない。すべりの悪い戸を開けて中に入ると、ドラムやギター、シンセにアンプ類が所狭しとあり壁には本棚、お気に入りの漫画本が並ぶ。ちゃんと電気も引いてある。他にカセットコンロや鍋まであり、若い僕らが充分生活が出来る空間だった。皆はここを‘ムーンスタジオ‘と呼んでいた。維持費獲得の為、他のバンドにも貸していて人の出入りもあり、ここに行くと暇する事なく誰かと遊べた青春時代の隠れ家だった。
狭くなったと言えば、どっこから中古のプレハブを調達し増築。
熱いといえば、ニューズ和歌山の‘譲ります‘で中古クーラーを譲ってもらう。
寒いといえば、粗大ごみから拾ってきたコタツを持ってくる。
忘年会といえば、誰かしら高級刺身をどこからか調達してくる。
・ ・・何かしたいといえばどうにでもなると皆が思っていた。
しかし時には、どうにもならない事もあった。ある日、岩本とテスト勉強と名ばかりの夜更かしを‘ムーンスタジオ‘で行っている時に僕は宙に浮かぶ人影を見た。ちょうど彼の左上あたりにそれを見たのだ。それは、まさしく幽霊・・! 僕の異変に気づいて彼が「おう、どないしたんじゃ?!」を問い、僕の目線に恐々目をやると「なんにもないやないか!」と怒鳴った瞬間、コンロの上にある鍋がガタガタと揺れだすではないか!これは、え?キャー!ポルターガイスト。態度が大きいわりに至って怖がりの岩本君は、震えた声で「こら!!」とトタンの壁を叩くとすぐさま治まった。震えながら夜が明けるのを待ったのである。しかし、ゴースト達のいたずらはこれだけでは留まらなかった。ある夕方、これまた僕がスタジオそばの溝に立小便をしている時、こぼれ落ちる雫の先にナント! しゃがんで僕を見上げるおじいちゃんの幽霊がいた。腰を抜かさんばかりに僕は、スタジオ内の仲間に事の成行きを説明し、現場へと案内した。「そこそこ!」と僕が言うと全員が「うぁ!」と後ずさりをした。そう、皆が同じ幽霊を見たのだ。
それ以来も怪現象は続いたが、みんなはこの地から離れることなく集っていた。
後に地主にその事を話すると、大昔ここは墓場だった事が分かった。月日が流れ、そんな土地も今では、アパートが建っている。僕は、現在それはどこかとは口が裂けても言えない。共に歌い、騒ぎ、時には喧嘩。本気で個性がぶつかりあった拠り所は、友情だけを残し卒業と共に皆そこから離れて行った。そして現在、ええおっさんへと成りつつある僕は、新たなる心の拠り所‘ムーンスタジオ‘を探し続けている。

Posted by sisomaru at 2006年02月12日 00:04


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