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2006年10月12日 | 【 3.月刊『お前だえよ!』 】 |
伝えたい!木とおじいちゃんの温もりを編みこんだ逸品。和歌山が誇る‘皆地笠
秋の気配が肌で感じる昨今僕は、本宮で素敵なおじいちゃんに出会った。
久しぶりの熊野。世界遺産登録に伴うブームもすっかり過ぎ去ったと思いきや平日にも係わらず、沢山の観光客が熊野三山をお参りしている。霊峰の中に観光バスの列。これが今の蟻の熊野詣かと納得するのである。癒しを求めて通う熊野の国道を南へと下って行くと皆地と地区がある。
山に囲まれたこの地区は、古き良き昭和の香りを景色にしたようなノスタルジックな田舎町だ。田んぼでは、トンボが飛び風にあおられて揺れる木々だけが静かに聞こえてくる。そこをしばらく歩いて行くと、「ツーツー」とカンナを引く音が聞こえてきた。引き寄せられるかの様に、進んで行くと小柄なおじいちゃんが年期の入った工房
で黙々と作業している。そうこの人こそが、その土地に伝わる‘皆地笠‘のたった一人の伝承者なのである。名前は、芝安雄さん御年85才。
皆地笠とは、平安時代より愛用されているヒノキ笠の事。
木目の通った最高のヒノキを、部材によって使い分け三種類の厚さに削り編み仕上げる
伝統民芸細工品である。ヒノキは、脂分を多く含んでいるので雨にも強く、伸縮がある為網込んでいるので隙間無く絞まる。雨よけ日よけにもいい優れもの。熊野詣が盛んだった頃に参詣人の間で広まり、後に農作業の強いみかたとして庶民にも親しまれてたという。
芝さんが若かった頃、この皆地にも8人の職人がいて女子供は細かい作業を手伝い、小遣い稼ぎをしていたらしい。それが、上質のヒノキの不足と過疎化の流れで今では、たった一人で一枚の笠を作っている。今まで弟子入り志願で来た人も居てたらしいのだが、ヒノキを削る微妙な厚さには、熟練された感が必要で思い半ばで皆この地を去ったみたいだ。だからといって妥協する程、プライドが傷つく事はない。芝さんは、縁側に腰掛けながら僕にこう力強く語った。「この笠は、1000年近く親しまれてきた優れものだ。わしの代でいったんは、途絶えても、いずれこの土地じゃなくても又引き継いでくれると信じているです。」話す芝さんに僕は、胸が熱くなった。伝統とは、幾ら守ろうと努力しても時々の現代に合っていないと引き継がれる事はないと思う。そういう事考えてみるとこの皆地笠は、今でも全国に愛用者がいてる。TVなどの取材も度々訪れて素晴らしさを伝えているのに、芝さんの代で途絶えてしまうというのは、何とも忍びなく思えて仕方ない。時代に合わして、被りやすい様に色んな工夫をしているにも係わらずだ!和歌山県の一番伝統のある‘皆地笠‘の灯をここで消すのも、灯し続けるのも我々次第という事を強く感じたのである。
帰り、折角ここまで来たのだからと、本宮大社へ立ち寄った際に何気に入ったお土産物やさんで笠が売ってあった。手にとって見てみると、芝のおじいちゃんの作った‘皆地笠‘じゃなく、外国で大量生産された竹の笠。もちろん値段も何百円程度。笠の表面に熊野‘の書いてあった文字を見て僕は、憤りを感じた。芝さんの笠は、一枚もそこには売られていなかったから。その土地に伝わる‘ほんまもん‘をせめて一枚でも置いてほしいと願う。多くの観光客の車が流れる国道311号線を見上げながら芝さんは、今日も笠を編み続けている。ちなみに皆地笠は、一枚5000円。お出かけの時使うも良し、飾り物としても風合いがあります。使い続けると飴色になり益々見た目にもグーです。
Posted by sisomaru at 2006年10月12日 00:18