に本格的に突入しはじめていることを示すもの。失業増加問題は、もはや一時的なものでなく欧米のように好不況にかかわらず構造的なものとなりはじめていると考えられる。
(一)
中央教育審議会は、5月30日、「審議のまとめ(その2)」を公表しました。
「まとめ」は、第15期中教審発足時の文部大臣の諮問「一人ひとりの能力適性に応じ
た教育と学校間の接続の改善」と第1次答申後に追加された「高齢化社会に対応する教育
のあり方」に関する、6月中にも予定されている「第2次答申」の素案です。
「まとめ」は、これからの教育について「一人ひとりの能力・適性に応じた教育を重視
していくことが重要である」とし、徹底的な能力主義の立場に立つことを表明した上で、
「中高一貫教育」「大学入学年齢の特例」「大学・高等学校の入学者選抜の改善」につい
て提言しています。
全日本教職員組合は、中教審の要請にも応じて、ヒアリングなどの機会を通じて、これ
らの政策提言についての意見を述べてきましたが、「まとめ」の公表にあたって、あらた
めて基本的見解を表明します。
(二)
「まとめ」の最大の特徴は、徹底的な能力主義にもとづく教育の再編と、それに対応し
た学校制度の改変にあります。
そのひとつは、「中高一貫教育」を部分的に導入することによって、学校制度を複線化
することです。
たしかに、中高一貫教育は、高校受験での競争を緩和し、思春期・青年期という重要な
成長過程にある子どもたちに、より系統的な教育を実施する可能性をひろげるなど、問題
の多い現在の中学校・高等学校の教育を改善していくうえで検討に価する制度です。しか
し、少なくても、すべての子どもたちに制度的に保障することによってその利点は実現さ
れるのであって、部分的な導入は競争の低年齢化をもたらし、競争の激化を助長するだけ
であるといわなければなりません。「まとめ」もこの問題に触れてはいますが、それは「
制度の適切な運用が図られない場合」にだけ生じるとしています。
しかし、「学校制度の複線化」のための手段として「中高一貫教育」を利用しようとす
る限り、競争の低年齢化は避けられないのはあきらかであり、単なる「運用」の問題でな
いことは、中教審もよく承知しているはずです。
それは、「まとめ」自身が「中高一貫教育の選択的導入」が「中等教育全体の多様化・
複線化、さらには学校制度の複線化構造を進める一環として極めて重要な意義をもつ」と
していることからもあきらかです。すなわち、「中高一貫教育の選択的導入」を突破口と
して、学校制度全体を差別的に再編しようというのです。わたしたちは、この点から第一
六期中教審の今後の動向を注視しなければなりません。
「まとめ」は戦後教育が「形式的平等を強調するあまりに教育システムの画一化や硬直
化をもたらした」として、憲法に保障された「教育における機会均等の原則」や、その基
盤である国民の教育権を攻撃し、自らの差別的再編政策を合理化しようとしています。こ
れは、憲法と教育基本法にもとづく教育を否定するものであり、厳しく批判されなければ
なりません。
学校制度改変につながる第二の柱は「大学入学年齢の特例」措置です。現在「一八歳以
上」と決められている大学入学年齢を「一七歳」に引き下げようというものです。「まと
め」は、これを「数学・物理」に「当面」は限定し、かつ「希有な才能を有する者」に適
用するとしています。しかし、日本数学会が指摘し、わたしたちも同様な見解を示したよ
うに、特定の分野における能力も、ひろくゆたかな人間性を基礎として形成されるのであ
り、充実した初等・中等教育の保障が前提とされるのです。「まとめ」はこうした批判に
ついての見解を示していません。
また、この措置が、限られた分野とはいえ競争の低年齢化と激化をもたらすと同時に、
「希有な才能」の独占的管理と支配に通じる危険性があることも指摘しなければなりませ
ん。
このような学校制度の複線化を「まとめ」が提言することは、今年一月の文部省「教育
改革プログラム」によって強要されていたといえます。わたしたちが指摘したように、こ
のこと自体、審議会の独立性や文部行政のあり方という点で重大な問題をはらんでいます
。
しかし、いっそう問題なのは、「教育改革プログラム」が打ちだした諸施策と第一次答
申、そして今回の「まとめ」全体をとおして、何が狙われているかという点にあります。
たとえば「プログラム」は、「小中学校における通学区域の弾力化」を打ち出し、すでに
文部省はこの措置を求める通達を出しています。これは、「学校選択の自由」を口実に、
一つの校区に複数の小・中学校を配置し、学校間の競争と序列を意図的につくりだし、高
校と同様に「学校の数だけ格差がある」状況を小・中学校にまで拡げようとするものです
。そして、これを「中高一貫教育」と組み合わせることによって、子どもたちを六歳時点
での競争に巻き込もうとするものです。
まさに、「まとめ」を含む一連の政策は、徹底的な能力主義にもとづいて子どもたちを
早期に選別し、その選別に対応して学校制度を複線化することに焦点化されているといえ
ます。
(三)
「まとめ」が強調するもう一つの特徴は「『ゆとり』のなかで『生きる力』をはぐくむ
」ということです。
第一次答申は、そのための具体的な方策として学校五日制の導入を打ち出しました。全
教は「生きる力」の強調が、子どもたちの困難をひろげている「新学力観」政策のいっそ
うのおしつけであることを批判したうえで、必要な条件整備とともに学校五日制の早期実
施を求めてきました。
「まとめ」は、その「ゆとり」を確保するためのあらたな方策として早期選別教育とそ
れに対応した学校制度の複線化、そして「高校・大学入学選抜制度の改善」を打ちだして
います。
問題は、こうした施策が、どうして「ゆとり」を生みだすのかという仕組みにあります
。それは、能力に応じた「選別」が早期におこなわれれば、その分あとに「ゆとり」が生
まれるというものです。さらに、「選別」に対応して学校制度を複線化し、別々のコース
で育てれば、いっそう効果的だということです。このような政策で「ゆとり」を確保し、
「選別」と引き替えに、子どもたちに「ゆとり」を与えようというのです。
こうした施策は、子どもの発達と可能性にたいする侮蔑です。そして、「人格の完成」
を教育の目的にすえた教育基本法からの逸脱です。未来につながる成長の芽を摘まれるこ
とと引き替えにあてがわれた「ゆとり」のなかで、「生きる力」が人間的なものとして実
を結ぶはずはありません。
大学・高校入学者選抜の「改善策」も同様な発想にもとづいています。個々の提言につ
いては慎重な検討を要するものもありますが、「まとめ」が強調しているのは、従来の方
針である選抜の「多様化・多元化」のいっそうの強化ということです。今日、受験競争が
、「多様化・多元化」政策のもとで、いっこうに緩和されないどころか、ますます激化し
ている現状は、こうした施策が、真の「改善策」となりえないことを事実を以て示してい
ます。
そのうえ「まとめ」は、「過度な競争」についてはその弊害を強調しているものの、受
験「競争」そのものについては積極的にその効用を説いています。このことは、「選別」
がすんだあとの「過度の競争」はあまり意味がないという見方を示唆するものとなってい
ます。それはおそらく「過度の競争」が、「落ちこぼれ」からは「生きる力」を、「エリ
ート」からは「創造性」を奪いかねないという想定にもとづいていると考えられます。そ
れゆえ、「まとめ」は、競争の「過度」な部分を「適度」な競争へと、つまり「意味のあ
る競争」へと組み替えようとしているのです。それは、子どもたちの「関心・意欲・態度
」をも評価の対象とする「生きる力」をめぐる競争です。こうして、競争は緩和されるど
ころか「多様化」「多元化」され、子どもたちの内面を管理・統制することを目的とした
全人格的な競争へと強化されようとしているのです。
「まとめ」も指摘するように、「高等学校全体の収容力という観点からすれば、すべて
の進学希望者を受け入れることはほぼ可能」となっています。子どもたちをはじめ、父母
・教職員の願いは、その条件を生かし、現実のものにすることです。全教は、子どもたち
のゆとりある生活と健やかな成長を願い、国民の教育権を保障する立場から、高校への希
望者全員入学制度を基礎とした改善こそ必要であると提言します。
(四)
徹底的な能力主義にもとづく教育政策の背景には、財界・大企業の「21世紀戦略」が
あることを指摘しなければなりません。
第一次答申もいうように、大企業・財界にとっては「先行き不透明な厳しい時代」です
こうした現状を、財界・大企業の立場から打開しようとする方策が、一連の「橋本改革」
です。その一つの柱に位置づけられた「教育改革」の課題は、「先行き不透明で厳しい時
代」を彼らが生き延び、打開するための「人的資源」育成の手段に「教育」を変えること
です。
中教審での審議に重大な影響をもったといわれる「学校から『合校』へ」(経済同友会
)の起案者である櫻井修氏は、こうした人材について「一握りのブリリアントな参謀本部
、マネージメントのプロ、大量のスペシャリスト集団、それ以外はロボットと末端の労働
者である」としています。将来の「参謀本部」と「末端の労働者」を「選別」し、安定的
に供給するすることを「教育」の目的にしようというのです。「選別」基準は、「能力」
であり「個性」です。「まとめ」が「個に応じた教育」をくり返し強調する理由もここに
あります。「できないのも個性」という発想にもとづいて「エリートはエリートにふさわ
しく」「できないのはそれなりに」ということが「個に応じた教育」の意味するところだ
といわなければなりません。「まとめ」が「中高一貫教育の部分的導入」「大学への飛び
入学」を「小中学校の学区弾力化」などに呼応して打ち出した政策的動機と根拠はここに
あるといえます。
このことは、「教育改革プログラム」が財界との定期的協議によって改革をすすめると
し、「まとめ」が改革の主体としてあえて「経済界」を挙げ、その協力を求めていること
にも示されています。
財界本位に教育を歪めようという攻撃は、教職員への管理・統制の強化や多忙化政策の
押しつけ、「勤務評定」に基づく差別的賃金の導入、あるいはまた、教育費削減や私学助
成への攻撃など、教職員ばかりか子どもたちや父母をも巻き込んで、いっそうの犠牲を強
いるものとなっています。さらに「規制緩和」の名のもとに、総人件費抑制、労働市場の
柔軟化、「女子保護」撤廃をはじめとする労働法制の全面改悪など、子どもたちの生活と
安心の根拠地である家庭と地域とを荒廃に追い込んでいます。
「まとめ」は「高齢化社会に対応する教育のあり方」を提言していますが、そこにも同
様な問題があるといわねばなりません。「自己責任制社会」を口実にした年金・医療費・
介護問題などにみられる社会福祉・公的扶助切り捨て政策のもとで、高齢者は、学習権は
もちろん、その生存権すら脅かされています。「まとめ」はこうした事実には一切触れる
ことなく「教育ボランティア」の名のもとに高齢者を動員し、介護や交流を目的とした「
ボランティア」を子どもたちに要求しています。ボランティアを政府の福祉政策の切り捨
てを補い、福祉政策の拡充を求める声を封じるものとしてはなりません。
たしかに、ボランティアは尊いものです。しかし、大人が自主的に判断し参加するなら
ともかく、成長・発達の途上にある子どもたちに、高校・大学入学選抜の評価基準である
ことを前提にして求めることにはなお検討の余地があるといえます。むしろ、事実上「強
要」されたボランティアは「勤労奉仕」となり、人間の権利に対する認識を阻害するもの
になりかねないとともに、子どもたちの純粋なボランティア精神を傷つけるものにもなり
かねません。
(五)
「憲法・教育基本法施行五〇年」の節目の年を迎えています。日本の教職員と多くの国
民は、幾多の経済的・政策的困難のなかにあっても、子どもたちを真ん中に、憲法と教育
基本法に基づく教育を守り育ててきました。
今日、「ゆきとどいた教育をもとめる全国署名」には、二三〇〇万人をこえる人々が名
を連ね、「学習指導要領抜本見直し決議」は全国一〇〇〇自治体で採択されています。こ
こにも、多くの国民が、子どもたちの健やかな成長と教育へのおもいを募らせていること
がしめされています。また、全教の呼びかけを一つの契機として「日本の教育改革をとも
に考える会」が結成され、「子どもから、地域から、草の根から」の教育改革構想とその
実現のとりくみがすすめられています。
「教育改革プログラム」を一つの軸に、憲法と教育基本法にもとづく教育への攻撃が強
められています。中央教育審議会「まとめ」もまたその延長上にあるといわざるを得ませ
ん。しかし、教育の主人公は何よりも国民であり、教育改革の主体もまたそこにあるので
す。
わたしたち全日本教職員組合は、国民との共同を大きくすすめ、民主的教育改革の実現
のために全力でとりくむことをあらためて表明するとともに、中央教育審議会が憲法と教
育基本法に立脚した答申をおこなうことを強く要請するものです。
一九九七年六月四日
子どもたちの現実を語りあい
いまこそ「安全・安心・信頼の学校づくり」をすすめるための共同の申し入れ
各 位
一九九八年四月一日
全日本教職員組合中央執行委員長 山口 光昭
貴職におかれましては、学校教育と住民福祉の充実・発展のためにご尽力のことと存じ
ます。日ごろは、わたしども教職員組合運動にご理解、ご協力をたまわり心より感謝もう
しあげます。
さて、栃木県黒磯市の事件をはじめ、中・高生による刃物を使った殺傷事件が、学校と
いういのちを育む場で多発しています。教育関係者はもとより、国民の誰もがあいつぐ悲
惨な事件に心を痛め、一刻も早い解決を切実に求めています。わたしたちもこれを学校の
あり方の根本が問われる重大問題としてとらえ、「子どもたちの現実を語りあい、いまこ
そ安全・安心・信頼の学校づくりを」という緊急アピールを全教職員へ向けて発表し、こ
の課題に全力をあげてとりくむ決意の表明とよびかけをおこなったところです。
教育とは、本来、子どもたち一人ひとりがかけがえのない存在として、学ぶ喜びと希望
を育む営みです。にもかかわらず、もっとも大切ないのちまでもが脅かされ、人間の尊厳
がそこなわれるような事態は、わが国の教育史上かつてなかったことです。これにとどま
らず、増加の一途をたどる登校拒否・不登校、いじめやそれを苦にした自殺、校内暴力の
多発などは、子どもたちが人間らしく育つことが困難となり、学校と家庭がその役割をは
たすことが、きわめて難しくなっていることのあらわれではないでしょうか。
こうした事態を生みだした背景や要因については、さまざまな立場から論議が交わされ
ています。わたしたち全日本教職員組合は、子どもたちをめぐるこのような事態は、点数
や人格までも序列化する敵対的な能力主義競争を強いる学校教育や受験制度と学歴社会、
子どもと向き合って家族の人間的なきずなを深めることが困難となった家庭、人間らしく
育つにはあまりにも貧しすぎる文化状況などが、深くからみあって生みだされたものだと
受けとめています。
とりわけ、学校教育が子どもたちに、学ぶ喜びや希望を育み、人間への信頼を寄せなが
ら、自分を発見し、自らの道をひらいていく力を培う場となっていないことが最大の問題
だと考えています。
子どもと教育の危機を生みだした要因・背景を深く検討し、その根本的な解決の展望を
明らかにするとともに、いま「安全・安心・信頼の学校づくり」をすすめるため、一致す
る課題にもとづく教職員・父母・地域住民・行政関係者の一体となった国民的なとりくみ
が緊急に求められています。そのため、以下の三点を中心に、国民世論を高めるべく、全
国の自治体首長・地方教育行政関係者・PTA役員の方々に率直なご意見をいただくとと
もに、共同のとりくみに参加されることを心より要請するものです。
ご多忙中とは存じますが、子どもたちのいのちにかかわる、一刻の猶予もできない事態
にかんがみ、貴職(団体)のご理解・ご協力をたまわりますようお願いする次第です。
記
1、ふれあい豊かな学校づくりのため、厳しい財政状況にあるとはいえ、国の責任で小学
校一年、六年、中学一年など困難度が高いといわれる学年に、可能なところから先行して
三〇人学級を緊急に実施すること。
また、地域の教育をまもり充実させるため、国の責任で教職員定数増など教育条件整
備のための特別な手だてを講じること。
2、学習と生活に真のゆとりを生みだすため、いま審議中の教育課程審議会や新しい学習
指導要領において、どの子にも学ぶ喜びと希望を育む、発達段階に則した確かな基礎学力
保障を基本とし、思いきった教育内容の精選と系統性のある配列が行われること。
3、今日のいのちを脅かすような子どもと教育の事態について、どうしたら解決できるの
か、学校・家庭・地域の課題は何なのかをともに考えあい、対話・懇談を地域で網の目の
ようにすすめるため、これらのとりくみを積極的に励まし、支援する施策を講じていただ
くこと。
以上の点について貴職の率直なお考えをぜひお聞かせくださいますよう、かさねてお願
いもうしあげます。
(ご意見・ご回答は別紙にてお願いいたします。)
*
中・高校生の殺傷事件続発にかかわる文部大臣への緊急申し入れ
|
一九九八年三月一三日
中・高校生の殺傷事件続発にかかわる緊急申し入れ
全日本教職員組合中央執行委員長 山口光昭
文部大臣
町村信孝 様
貴職におかれましては教育行政充実にご尽力のことと存じます。
さて、一月二八日に栃木県黒磯市でおきた中学生による教員刺殺事件以来、中・高校生
による殺人、傷害事件が続発し、子どもたちはもとより父母、国民のなかに大きな衝撃と
不安が広がっています。
今日の子どもたちにあらわれている「いのち」までも傷つけあうような心身の発達上の
問題、教育活動上の困難は極めて深刻なものであり、教育史にかつて見られなかった重大
なものです。
こうした事態をもたらしている原因や背景について深い分析をすすめ、教育政策や社会
病理の影響の問題を含めて根本的な解明をおこなうことが緊急に求められています。同時
に、学校運営や教職員の教育指導のあり方についても深く検討し、子どもと教職員のいの
ちと人権をまもり、子どもたちのすこやかな発達、成長をはかるために、国民的協力を得
ながら教育関係者の総力をあげなければならないと考えます。
この事態の解決は、橋本首相の施政方針演説でも述べられているように、「おとなの責
任で対策を考え、実行」することが求められています。とりわけ、教育行政当局にあって
は、「心の教育」や家庭責任の強調などにとどまらず、教育政策の抜本的検討と教育条件
の改善に全力を尽くすことが求められています。なかでも、今日の事態を解決するうえで
、教職員と子ども、子ども同士の豊かな人間関係を実現するための教育と、そのための条
件整備に全力をあげるべきです。
私たちは、今日の事態にあたり、教育条件を少しでも改善するための施策として左記事
項につき緊急に実現をはかられるよう強く要請します。
記
一、教職員と子どもたちとのふれ合いを何よりも大切にする学校運営がおこなわれるよう
尽力すること。
二、小学一年、六年、中学一年など、困難度の高い学年について、先行して三〇人学級を
実施するなど 特別の緊急措置を講じること。
三、「財政構造改革」法により実施が繰り延べられた義務制第五次(高校第六次)教職員
定数改善計画 を当初計画通り実施するよう政府予算案を修正すること。
四、「我が国の児童生徒の学習状況はおおむね良好である」(教育課程審議会「中間まと
め」)とする 認識にたった教育課程行政に抜本的検討を加えること。
五、「中高一貫教育」の選択的導入、通学区の弾力化など、受験競争の激化につながる政
策の拙速な導 入をおこなわないこと。
六、子どもたちの人間らしい成長にとって障害となる社会病理の広がりが危惧される「サ
ッカーくじ」 法案について、文部省として、推進することを巌に慎むこと。
以 上
・・緊急アピ−ル・・
子どもたちの現実を語り合い、今こそ安全・安心・信頼の学校づくりをすすめよう!
少年による刃物を使った事件の続発を防ぎ、子ども自身と学校の安全を守るために全国
の教職員に緊急に訴えます
一九九八年三月一二日
全日本教職員組合中央執行委員会
私たちの必死のとりくみや願いにもかかわらず、いのちを育む学校で、刃物によって尊
いいのちが奪われるという悲惨な事件があいついでいます。子どもの人格に働きかけ、人
間の尊厳を守り育てるという教育の営みの場で、いのちを守ることができな
いという事態が続くことは日本の教育史上例のないことです。このようななかでいま教職
員は、これらの深刻な事態を我が身に引き寄せながら、心を切り裂かれる思いで受けとめ
ています。そしてだれもがこのような事態の一刻も早い解決を求めています
。 一連の事件は、今日の子どもと教育がおかれている困難を端的に映し出しています。
日本の教育や社会がいかに深く歪み、不安に覆われているかを示すものです。従って、こ
れらの事態の根本的解決のために、人間らしさを奪う異常な競争と管理による教育の歪み、
人間の尊厳に背く文化状況や政治の歪みをただし、人間を大切にする教育と社会の実現に
向けた国民的な運動を強めることが重要です。
同時に少年の刃物を使ったあいつぐ事件を前に、現状のもとでも事件の続発を防ぐため
に、教職員と学校が子どもや父母、地域、行政と力を合わせて一致できる緊急のとりくみ
を強めることが求められています。このことは教職員と学校に対する広範な父母・国民の
強い願いともなっています。
全国の教職員のみなさん、私たちは、子どもたちのいのちと人権を守り、人格形成をは
かることを最も基本的な責務としています。それだけにこれまでも、いのちと平和の大切
さを学びあうことに全力をあげ、いのち育む学校づくりのとりくみを全国各地で多様にす
すめてきました。いま重要なことはこれまでのとりくみをひき続き発展させながら、今日
の重大事態に則して、子ども自身と学校の安全を守るために全力をあげることです。その
ために全国の教職員のみなさんが、次のとりくみを緊急に強められることを心から訴えま
す。
一、一連の少年の刃物による事件をどう考えるか、その原因と背景をどのようにとらえ
るか、自らの学校と地域の課題として論議し、子ども自身の安全と学校の安全を守るため
にどうしたらいいのか話し合いの輪を広げましょう。
・子どもたちとクラスで、学年で、学校で特別な時間の設定も含めて話し合いましょう。
・職員会議で十分な時間を確保し、子どもたちの実態と結びつけて話し合いましょう
・学校で地域で教育懇談会や、教育小集会を開いて父母と話し合いましょう。そして家庭
での話し合いをよびかけましょう
二、子どもたちが互いの人権を尊重しあい、友情を深める自主的な討論ととりくみを促
すなかで、学校と地域で次の二点について子どもと父母、教職員の合意を形成していきま
しょう。
一つは、かけがえのないいのちを大切にすること。そしてどのような動機や背景があろ
うとも刃物で傷つけ、死に至らしめる残虐な行為は絶対に許されないこと
二つめは、時として人間を死に至らしめる凶器ともなる刃物は、学校に絶対に持ちこま
ず、また持ち歩かないこと
三、一連の事件の背景にいじめや「暴力」があることを重視して、いじめをなくし体罰
を含むいっさいの暴力を学校から一掃すること
教職員のみなさん、子どもと父母、地域と話しあいをするさいには、私たちの苦労と困
難を胸の内に収めておかず、率直に学校や地域で語りましょう。本音で語り合うことが地
域・父母との合意を形成し、共同をすすめるエネルギ−になっていくからです。そして、
話し合いのなかで出された子どもたちや父母の学校に対する様々な意見、要望、提案をし
っかり受けとめ、安心して通える学校づくりの第一歩としてその実現のために力をつくし
ましょう。
いま全国の教職員は、困難をかかえながらも「新たな荒れ」と正面から向かい合い、勇
気をもって今日の深刻な事態を打開するためのとりくみを強めています。全教はこれに応
えて二月の第一七回中央委員会で「子どもたちを人間として大切にする教育と社会をつく
るために」のアピ−ルを出し、中学生・高校生による殺傷事件をくりかえしてはならない
という決意をこめて国民的な運動を呼びかけました。また文部省に対して、一連の少年に
よる事件の防止のためにも、子どもと教職員のとりくみをはげまし、多忙化解消、三〇人
学級の早期実現など、教職員の劣悪な労働条件と教育条件の抜本的改善を緊急に実施する
ように申し入れを行いました。子どもと教育をめぐる例のない事態を一日も早く、しかも
根本的に解決し、子どもたちが未来を生きるにふさわしい展望を築くために、意見や立場
の違いをこえて広範な父母・国民との共同を大きく広げましょう。
ページはじめにもどります
中央教育審議会
「今後の地方教育行政の在り方について」の中間報告について
全日本教職員組合
一、中央教育審議会は、三月二十七日、「今後の地方教育行政の在り方について」の中間
報告をまとめ、文部大臣へ提出しました。 今後、具体策の検討をすすめ、六月に答申を
提出する予定です。これを受けて、文部省は一九九九年の通常国会に関連法の改正 案を
提出するとしています。
「中間報告」は、橋本首相がすすめている六大改革の「規制緩和」・「地方分権」・
「教育改革」の観点から地方教育行政の 在り方を見直し、中央教育審議会答申による公
教育の解体・再編を教育行政の面から支えるものとなっています。
二、全教は、一九九七年十二月十二日、中央教育審議会「地方教育行政に関する小委員会
」のヒアリングに際して、憲法・教育基 本法及び子どもの権利条約をはじめとした教育
に関する国際的な合意にもとづき、地方教育行政の役割、学校の自主性と教育活 動の自
主的権限、父母・地域住民の教育参加の保障などを中心とする地方教育行政の在り方につ
いての提言をおこないました。
以下、「中間報告」に対しての見解を表明します。
第一に、「中間報告」は、旧教育委員会法と地方教育行政法を同一視し、戦後の教育
行政に対する反省を欠いたものとなって います。教育長選任についても適切におこなわ
れているとの現状認識や、教育行政がおこなう指導・助言等に法的拘束力をもた せてい
る現状を「『受け止め』側の意識問題」とするなど、国民の教育権保障をないがしろにし
てきた行政責任や教育行政の官 僚統制問題については、全く触れていない決定的な弱点
をもつものです。
第二に「中間報告」は、国・文部省の国家統制を改めようとはせず、「手法の転換」
で新たな管理統制をはかろうとしている ことです。「中間報告」は、国の役割を学校教
育制度など基本的な制度や全国的な基準の設定に置き、教育課程や生徒指導など の指導
行政を基本的なものにとどめることとしています。具体的には教育課程の基準の大綱化、
弾力化をすすめ、そのために教 科内容や教育方法などの助言・支援については「ナショ
ナル・カリキュラムセンター」を、いじめ・校内暴力などの生徒指導行 政については「
生徒指導研究センター」を設置して、文部省に代わって必要に応じて指導助言ができると
しています。このよう に、これまでの国・文部省が行ってきた施策・事業をいずれも基
本的には、今後とも国の担うべき事業として再確認し、国の役 割を明確化するため、全
国的な基準設定の監督庁を「当分の間」文部大臣と規定した学校教育法第一〇六条を見直
すとしていま す。このように教育課程編成の地方・学校の裁量権を広げるように見せな
がら、国基準の枠内にとどめるという「手法の転換」 をはかるものとなっています。
第三に「中間報告」は、「地方分権」「規制緩和」の名のもとに、義務教育費の国庫
負担削減や教科書有償化など教育条件の 切り捨てをすすめる方向や教育への市場原理の
導入を企図していることです。
「中間報告」は、教育行財政制度の見直しを「地方分権」推進の観点から、国、都道
府県及び市町村の役割分担と連携協力に 求めています。「地方分権」推進委員会は「小
さな政府」と「大きな地方」として、国の財政負担を地方自治体へしわ寄せする 国家的
リストラ計画を打ち出しています。こうしたもとで、学級編制や教職員定数の標準法の見
直しについて、市町村の自主的 判断を尊重するとしていますが、その財源保障について
は何ら触れられていません。また、教職員や専門的職員の採用選考・研 修に地域の有識
者や企業などの協力、市町村教育委員会に拡大した事務処理を共同処理や非常勤・再雇用
の活用や住民ボランティ アの活用に求めるなど、教育条件整備での公的責任を放棄する
ものとなっています。同様に、地域の教育機能の向上を家庭・地 域の連携とPTA活動
の活性化ですすめ、企業、民間事業者、スポーツ指導者等の教育活動への導入、学校施設
の開放など「規 制緩和」路線とボランティア拡大で行うなど、民間活力の導入を一層す
すめようとしています。
第四に「中間報告」は、地方教育行政の自主的判断や学校の自主性・自律性の確立を
強調しています。これは、学校の困難打 開と住民自治を求める国民の声を意識せざる得
なかったことのあらわれでもあります。
しかし、教育長の選任に議会の同意を導入し首長が任命するとして、処遇改善や専任
化などで教育長のリーダシップをはかる と同時に、学校においても校長の人事や予算面
での権限を拡大し、民間人の登用にも道を開く校長任用資格を見直し、その権限 を強め
るとしています。さらに、学校と教育委員会の関係で指示・命令と指導・助言とを明確化
するための管理運営規則の見直 しなどを求めています。校長は、子どもと父母・住民に
責任を負う教育活動をすすめるための学校の代表者として、その役割は 極めて大きいこ
とはいうまでもありません。しかし、「中間報告」がことさらに校長のリーダーシップを
強調するのは、職員会 議を校長の補助機関とするなど教職員の民主的協議と合意にもと
づく教育活動や自主的権限を統制する意図があるからです。ま た、「中間報告」は、教
育行政に対する地域住民の意向把握・反映を強調しているものの、公聴会、教育モニター
制度や教育委 員会に苦情処理窓口設置などを通して反映させることにとどめています。
真に住民の総意を地方教育行政に反映させるのであれば、父母・住民の学校参加や教育委
員の公選制などに踏み込むべきです。
三、いま、政府・文部省の施策にもとづく画一的・統一的な教育行政制度のもとで、教育
における住民自治と学校教育の自由と自 主性が大きく損なわれ学校の「閉塞状況」を生
みだしています。いじめ・自殺、不登校・登校拒否、授業成立の困難など子ども と教育
をめぐる深刻な事態の解決を求める世論が高まっています。そうした中で、全国各地で、
教職員は子どもを真ん中に、父 母・地域の人々と共同して三〇人学級や私学助成の拡充
などの教育条件整備と、子どもや父母参加の学校づくり運動のとりくみ をすすめていま
す。
全日本教職員組合は、改めて、政府・文部省に憲法・教育基本法、住民自治の原則に
もとづく地方教育行政の在り方の抜本的 な改革を行うよう要請するとともに、安心・共
感・信頼で結ばれた学校づくりの運動を父母・国民とともにすすめる決意を表明します。
一九九八年四月一日