ドイツ便り15(真空管LS−50)


私は以前、吉村昭氏の「深海の使者」と津田清一氏の「幻のレーダー・ウルツブルグ」読みました。これらの本に出てくるドイツ・テレフンケン社のハインリッヒ・フォーデルス技師は昭和18年6月16日、フランスのボルドー市潜水艦基地を陸軍の佐竹金次技術中佐と共にウルツブルグ射撃用レーダー(現在私の住んでいる街の名前が当時のこの電子兵器の秘匿名でした)製図図面とその国産化に必要な重要電気部品一式(真空管など)、レーダー試験用測定器などを潜水艦2隻に分載して当時の日本統治下のシンガポールに向けて出発したそうです。途中、幾多の敵の攻撃に会い、困難に遭いながらも無事シンガポール経由日本に到着したそうです。

ハインリッヒ・フォーデルス技師は日本陸軍の招請したレーダー専門の優れた技師であったので、陸軍多摩技術研究所、畑尾正央大佐、兵器行政本部、吉永義尊中佐が出迎えまた、海軍側からも電波兵器担当の伊藤庸二技術大佐らも姿を見せ、三鷹の日本無線株式会社内に設けられた多摩技術研究所分室でレーダー製造技術の指導に当たったそうです。しかし、このようにして日本陸海軍は、ドイツの機密兵器の技術導入を企てて潜水艦を日欧間で往来させましたが、それらの艦が相次いで撃沈され、多くの優秀な技術者軍人が戦死した為、期待通りの結果を得る事は出来ませんでした。第一便のイ号第30潜水艦以来、日本海軍とドイツ海軍連絡を担当してきた、首席補佐官、渓口大佐はイ号52潜水艦の撃沈によって、将来戦局が著しく好転しない限り潜水艦による日独間の連絡は全く不可能と断定、またドイツ駐在日本大使館を中心にした、ヨーロッパ駐在の日本人達の間にも終末観が濃く漂い日本への唯一の連絡方法であった潜水艦便の杜絶によって彼らはドイツ軍領地内に孤立した事を悟ったそうです。

さて、この当時のドイツの最新技術導入のため何人もの日本人が戦死したわけですが、この当時の最新式レーダー(Funk Messung Geaeat)FuMG62型(ドイツ軍秘匿名ウルツブルグ)の心臓部とも言うべきパルス式5極管、当時の世界最高機密の真空管、Telefunken社製のLS-50と言う真空管を入手する事に成功しました。今回のドイツ滞在では、色々な意味で、(ドイツ、無線、ヴュルツブルク)と言うキーワードが重なり、是非これは欲しいものの一つであり、ずっと事あるごとに探してきましたが、この約二年間、なかなか見付かりませんでした。


しかし、先週の土曜日6月29日、先日のロシア機とDHL機の飛行機事故で有名になったボーデン湖畔の街、ツエッペリン号の基地としても有名なフリードリヒスハーフェンで開かれたドイツ・ハムフェアに地元のハムの誘いもあり、一日かけて出掛けて来ました。その蚤の市で、ふとした切っ掛けで、幸いにも発見、入手する事が出来たわけです。真空管にはR.L.M. Eigentum、R.L.M.とはReichsluftfahrtministerium、つまり当時のドイツ帝国空軍省の所蔵と言う刻印が印刷されています。他にWehrmacht(国防軍)と銘打ったものもありましたが、R.L.M.と打ってある物は他になく、空軍省所蔵のこちらの方を選びました。また、箱入りと言うのもかなり珍しく、とてもいい記念になりました。真空管の専門家、以前JARLに居られたJA1FC、藤室 衛氏からは以下のようにメールも頂きました。

奈良 圭之輔様

TelefunkenのLS50を入手なされたとのこと、大層おめでとうございます。 日本ではSoviet製の類似品は見かけますが、純正の箱入りとは宝物です。

また、選択は当時のレーダー兵器の元締めは空軍の管轄だったからと言う事も考えました。日本はちなみに当時は空軍は無く、陸軍、海軍がそれぞれ航空隊を持っていましたね。あまり関係はありませんが、青森に住んで居る歯科医の伯父は台湾に駐屯していた陸軍の志願航空兵で、100式司令部偵察機と言う飛行機を操縦して台湾沖でグラマンに撃墜され、海に着水、耳に水が入り、暫く平衡感覚がおかしくなる症状を 引き起こしたそうです。ついで、マラリアにかかり療養中に終戦だったそうです。

60年以上前には考えられなかったでしょうが、今では瞬時にしてアマチュア無線、電話、ファックス、はたまた電子メールとそれに添付する写真が日独間を簡単に往復していますが、平和な世界と言うものは何と素晴らしい事でしょう。

今回入手した家宝の真空管の写真を添付してみます。バックに写っているのが、私の勉強机の上のシャックです。見えているパドルはDL1NDS、友人のフレッド(大工)が作ってくれたものです。全部合板で出来ています。これでも結構使い物になります。HIHI.

それではまた、、、Vy73!


 

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